雷雨’s blog

現実を書こう!

短編夢小説/BLEACH main因幡影狼佐 sub涅マユリ(?)

空はどこまでも青く果てしない。
我が心を染めし 君はどこまで遠くにゆくのだろうか。
想いは空のように限りない。


◆ Rotten rim ◆


『…因幡さん…貴方だったんですね』

雷雨は目の前に立つ男を睨み付けた。
十二番隊第七席の男は、此度の謀反の首謀者であると判断したのだ。

「だったら、どうしようと言うんです?」

男に焦りは微塵もなく、余裕の笑みさえ浮かべている。
隊長格と互角に渡り合う技量を持つ彼にとって、八番隊第四席である彼女は取るに足らない存在だった。

『信じていたのに…』

「信じる?何を信じると言うのですか?貴女は何も見えていない」

男は少し後退り、後ろ手で機械に触れた。
それを確認した雷雨も刀に手をかけ身構える。

「貴女に一つ聞きたかったことがあります」

『………。』

「何故、八番隊の貴女が十二番隊に肩入れするのか…いえ、十二番隊ではなく、涅隊長と言った方がよろしいのですか?」

一瞬だけ雷雨の目に動揺の色が浮かんだ。
彼女の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
それは、十二番隊で過ごした幼い頃の記憶であった。
まだ浦原喜助が隊長を務めていた時代。
涅マユリという科学者に出会った彼女の死神としての始まりの時代である。

「貴女の心の中はよく読める。ですが何故、涅隊長なのかが理解できませんね」

『…ほざけ…っ』

「私の方が科学者としての能力を上回るのに…」

突如、警報が鳴り響き、赤い光の点滅が室内を照らす。
男が機械を操作し、何かを起動させたようである。
咄嗟に抜いた刀を雷雨は握り締めた。

『何をしたっ!?』

「私達は手を取り合い、共に歩むことができると思うのですがね…貴女はそれに気づくことができない…だからこそ、貴女に気づかせることが私の使命」

『貴方とは解り合えないっ…解りたくもないっ!!!』

瞬歩で間合いを一気に詰め、刀を男目掛けて振り下ろすも、ただ空を切った。
真上からの笑い声と共に男が刀を槍のように突く。
それを、彼女は避けると、切っ先を床に突き立てた。

『影浪!!!』

名前を呼ばれた斬魄刀が反応し、周囲の影が浮き上がる。
迫る影から逃れるように男は一気に後退した。

「私の名を呼んでいただければ光栄なのに」

『貴方の名を呼んだところで貴方は帰ってこない』

「貴女が私の元に帰ってくればいい」

人形の影が次々と男に斬りかかる。
それを容易く受け止め、影を消し飛ばすと、雷雨へ不適な笑みを浮かべた。

「狂え」

途端に男の斬魄刀の形状が変化を始め、霊圧の上昇で室内に強風が吹いた。
衝撃に耐えるのが精一杯の雷雨の目の前に刃が向けられる。
避けようとするも、壁を背にして逃げ道を失い、刃が喉元の手前で止まった。

『そのまま殺してしまえば良かったのに』

「言ったでしょう?気づかせるのが使命だと。貴女を殺すことではない」

『後悔するとしても?』

「何…っ?」

彼女の姿が崩れ、たちまち影へと変わった。
男は驚いたように周囲を見回す。

『ここだよ』

瞬時に男の背後から刃が振り下ろされる。
男は避けきれずに呻き声を上げ、傷口を押さえた。

「…っ…貴女を侮っていたようですね…」

『貴方を殺してでも止める』

「…そうですか、それも楽しそうですね…ですが、残念です。貴女との遊びはここで終わりなのですから」

『何を言って……!?』

身体が動かないことに彼女は気づいた。
まるで石のように己の身体が重い。
その感覚に彼女は覚えがあった。
そして、それが何なのかを思い出した。

『…涅隊長の…』

「やはり、貴女はよく知っていますね。それは、涅隊長の斬魄刀の能力から着想を得て作った薬の効果ですよ」

『…一体いつっ』

「貴女は先程、私を斬りつけ私の血を浴びましたね」

『!!!!』

彼女の脳裏に情景が浮かんで消え、後悔に似た気持ちが沸き上がる。
手から刀が落ち、その音が無情に彼女の心に突き刺さった。

「その表情…堪りませんね。…お気づきの通り、私の血にその薬を仕込んだだけのこと」

男は雷雨に近づくと、頬に手を添え、顔を覗き込んだ。
彼女の目は男を睨み付け離さない。

「やっと私を見ていただけるのですか…ずっとこの時を待っていましたよ」

『勘違いも甚だしい…』

「貴女はそのうち、気づくでしょう。何が幸せなのか」

雷雨の背に腕を回し、抱きかかえると、男は満足げに笑みを溢した。
それを見て、彼女は現実から目を逸らすように瞼を閉じる。
瞼の裏で涅マユリが失望したかのような表情を浮かべ消えた。
途端に彼女は目を開き、声を張り上げる。

『影狼!!!』

落ちていた刀が反応し、一つの影が雷雨に触れた。
男が阻止しようとするも、既に彼女の姿はない。

「…いいでしょう。その方が遊びがいがあるというもの。逃げるだけ逃げなさい…ですが、必ず貴女を捕まえましょう」

雷雨は斬魄刀の能力によって技術開発局に逃れ、その疲弊した身体を動かせないまま床に伏せていた。
阿近がいち早く見つけ、四番隊に連れていこうとするが、それを誰かの手が制止した。

「隊長!」

「無様じゃないかネ、雷雨」

斬魄刀によって長距離の瞬間移動をさせたことにより、雷雨の霊圧は感知するのも難しい程に下がっている。
息遣いも荒く、汗で濡れた顔を上げることさえ出来ない。

「お前には昔から世話が焼けるヨ…そろそろ、この腐れ縁を断ちたいところだが…マァいい…此度は私の部下が三下のくせに生意気な行動を取ったからネ…」

涅は袖口から薬瓶を取り出す。
阿近が雷雨を仰向けにすると、その薬瓶が彼女の口元に運ばれた。
透明な液体が全て注がれ、彼女は安堵したかのように涅を見据える。

「全く…お前は…。それで四席が務まるなんて考え物だヨ」

『…涅隊長』

「何だヨ」

『…感謝します』

涅は雷雨から目を逸らし、阿近を見た。
何かを察した阿近は、そそくさとその場を後にする。

「…お前はあの頃から何も変わっていないネ…子どものようだ。だが、そんなお前だからこそ、目が離せないのも事実だ。分かるかネ?お前は私の目を奪ったのだヨ」

『………。』

「こんな陳腐な言葉は嫌いだが………愛しているヨ………」

その言葉を聞き、雷雨は先程戦った男の言葉を思い出した。

(「私の方が科学者としての能力を上回るのに…」)

科学者を愛したのではなく、涅マユリという男を愛した。
ただ、涅マユリが科学者だっただけだと、彼女は彼の腕の中で思った。

『私も愛しています…マユリ様』