雷雨’s blog

現実を書こう!

【映画】信長協奏曲鑑賞記念夢小説/森可成(微甘)

―想いは交差する―
●家族●
『ありゃ?また稽古ですか?』
ある晴れた日、浮いた格好をした少女が声を掛けた。
「儂達は皆怠ることはない」
月代の武士が答える。
その周りでは彼の子供達がはしゃいでいた。
『子供は放っておいてですか?』
その一言に稽古の手も止まる。
(お姉ちゃん!遊んで!!)
同時に子供達は少女に駆け寄った。
『はいはい、あっちに行こっか!』 
周りの声がどこかへ消えていくと、一人の男は日で火照った頭に手をおいた。


「えっ!?何々!?森りん、自分の子供から嫌われてんのっ!?」
頼りなく頷く頭に主である男は指を指した。
「それ!それだよ、森りん。なんて言うの?その頼りなさ?それがいけないんじゃないの?」
「そっそんな・・・・」
「だよねっ?丹羽さん!」
突然振られたもう一人の男は驚きながらも答える。
「えっ、ああ。そうでござりまする。そのなんとも情けないのはいかぬぞ、森!」
「はぁ・・・」
落ち込む森に主は言い放つ。
「雷雨に聞けばいいじゃん」


塀の上に座る少女はどこか退屈そうである。
先程まで遊んでいた子供達は疲れきったのか眠ってしまったようだ。
そんな彼女の耳に咳払いが届く。
「あっ、雷雨。その、今よろしいか?」
振り向くと、そこには森の姿があった。
『はい、大丈夫ですよ、どうしました?』
「隣よろしいか?」
雷雨が頷くと男は塀を登ろうとした。
が、足を滑らせ尻餅をつく。
『だっ大丈夫ですかっ!?』
心配した彼女が塀を降りて男の傍に来ると、男は俯いた。
「こういうのがいけないのであろう?」
『は?』


『あー、そういうことでしたか!』
二人は場所を変えて話した。
説明を受けた雷雨は笑いながら答える。
『別に嫌われてなんかいませんよ』
「それは嘘であろう?」
『いえいえ、嘘ではありませんよ。嘘だったら、貴方の周りで子供達は遊びません』
決定的な一言が放たれると、森は涙を溜めた。
それを見た彼女は思わず溜め息をつく。
『それは直した方が良いかもしれませんね。女々しさは。』
「そっそうであるな!すまぬ」
涙を拭うと満面の笑みが彼に広がった。
「そういえば、お主の生まれはどこであった?」
『・・・』
思わず言葉が詰まる。
空気が変わったことに気づかない森は話続けた。
「お主がどこから来たのか気になるぞ」
『・・・故郷はありません』
〔この世界には〕と心の中で呟く。
タイムスリップを知らない彼はそんな彼女の様子に後悔の念を抱いた。
「すっすまぬ、聞いてはいけぬことを聞いた」
『・・・だから、あの子達には故郷が、家族が・・・貴方がいるんですから、幸せなんですよ』
その言葉を聞いた森は彼女の目を見据えた。
もう女々しさなど残ってはいない眼で。
「ここを故郷にすれば良いではないか」
『それは・・・』
「それに、今更言おうとは思ってもいなかったが・・・お主は一人ではない。ここにいる全員がお主を家族だと思っておるのだ。」
『え・・・?』
「特に丹羽殿はお主を気に入っておったぞ」
『丹羽さんが?』
力強く頷かれると彼女の心に暖かな何かが流れ込んだ。
目頭が熱くなるのを感じ、彼から目をそらす。
察した森は彼女が落ち着くまで肩を抱いていた。


明くる日、集会が行われるということで沢山の武士が主の元へ集まっていた。
雷雨は主の友人ということで例外でその場へ赴くことになっていたが、襖の前で立ち止まっている。
どうしても昨日のことが思い出され、変に気になり、入れないでいたのだ。
「案ずるな、皆待っておる」
そこへやってきたのは森である。
『はぁ・・・』
彼に背中を叩かれると雷雨は昨日までの彼はどこへいったと内心驚く。
彼の顔が男らしく彼女の眼に映ったからだ。
「儂がおる」
その一言に彼女の顔が綻んだ。
二人は暫く見つめ合った後、静かに襖を開いた。


その日の昼頃、子供達と遊ぶ森の姿と丹羽と笑顔で話す雷雨の姿があった。