雷雨’s blog

現実を書こう!

クリスマス・イヴ記念夢小説/妖怪どうしたろうかしゃん/ギャグ

『あー、これ完全にクリボッチだわー』
イルミネーションの下で独り。


〓まさか!クリスマス・イヴを祝うために一発ギャグをやるんじゃないだろうなっ!?〓


カップルで賑わうこの日。
前夜祭とでも言おうか。
独り身には厳しい一日、いや二日間の始まりである。
外に出てみれば、ラヴァーズ、アベック、カップル。
言い方を変えれば別物のようだが、全て同じものだ。
見渡す限りの人で溢れかえるクリスマスツリー。
イルミネーションが輝く街は眠るということを知らないようだ。
『ふむ、これはやらかしたな』
一人の少女は溜め息をついた。
こんなことなら嫌でも友人達のカラオケに付き合うべきだったと後悔する。
こんな日に独りとは厳しい環境であった。
『・・・あ』
ふと、空を見上げれば待っていたかのように雪が降り始める。
超絶スローに舞い落ちるそれらは、カップル達の士気を上げた。
『やってくれるな・・・』
スマホを取り出し、意識をそらす。
現実逃避と言えば悲しすぎる行動だった。
それでも、今の彼女にはすがるものがそれしかなかったのである。
イヤホンをポケットから取り出す。
すると、誰かの手がそれを制した。
『っ!?』
「フェッフェッフェッ!」
驚いて言葉も出ない。
そこにいたのは男である。
しかも、冬だというのに、和服というか、もう布切れ一枚だ。
「この聖なる夜にボッチであるお前をどうしてやろうか!どうしてやろうか!」
仮装コンテストなんてやっていただろうか。
いや、やっていたとしても、これは不審者である。
「おい!何をしている!?」
『え、通報』
「やめぃ!早い、早すぎる!」
すかさずスマホが叩き落とされる。
『何するんすか』
「・・・」
少しの沈黙の後、何もなかったかのように男は続けた。
「どうしてやろうか!さて、どうしてやろうか!シャー!!」
髪を耳にかけ、何かを待つように静止する。
『・・・』
訳が分からず、何も答えられない。
そんな様子に男は再び繰り返した。
「どうしてやろうか!シャー!?」
『あなた誰っすか?』
「おっおう・・・それは名前を言えということかシャー?」
頷けば、男は満面の笑みである。
「妖怪どうしたろうかしゃん!だシャー!!」
思わず吹き出す。
これはヤバイ人である。
いや、人ではなく、妖怪だとしておこう。
『マジッすか。うわぁ、なんか怖いなぁ・・・その辺のカップルとか襲いそう』
「じゃあ、そうしてやろうか!カップルを襲ってやろうかシャー!!」
今にも走り出しそうな勢いだったので、一応少女は止めた。
『止めましょうよ』
「おお・・・止めるのか」
聞き覚えの良い男だ。
ますます何がしたいのか分からない。
「じゃあ、どうしてやろうか!どうしてやろうか!」
『・・・はぁ、こんなの付き合ってられないよ。早く帰って寝ますわ』
「おお!そうしてやろうか!付き合ってられないから、早く帰って寝てやろうか!」
突然、男は背を向けると、歩き始めた。
本当に帰るつもりのようだ。
そこで、少女は気づいた。
『まっ待って!』
「待つシャー!!」
ピタッと止まる男。
やはりと少女はニヤついた。
これは俗に言う、指示待ちである。
『まさかっ!音痴気味にクリスマスソングを歌うんじゃないだろうなっ!?』
限度を超えた無茶ぶりに男の顔に焦りが見え始める。
「じゃあ、そうしてやろうか!音痴気味にクリスマスソングを歌ってやろうか!」
咳払い一つをすると、覚悟を決めたかのように声を振り絞る。
「会ーいーたいとー思ーう回ー数がっ」
悲惨であった。
男から悲痛な叫びが漏れる。
それでも、めげない。
「さぁ、次はどうしてやろうか!シャー!」
少女は少し考えると、答えた。
『まさか!クリスマス・イヴを祝うために一発ギャグをやるんじゃないだろうなっ!?』
又もや小さな叫びが漏れる。
「じゃっ、じゃあ、そうしてやろうか!クリスマス・イヴを祝うために一発ギャグをやってやろうか!!」
と言ってもすぐに考えつかないものである。
目を瞑り、眉間に皺を寄せ、汗を流す。
相当焦っている。
仕方なく目を開き、ボソッと呟いた。
「サンタの必殺技・・・・サンタークロス」
恥ずかしそうに髪で顔を覆う。
その姿に同情せざるを得ない。
『まさかっ!この空気のまま、帰るんじゃないだろうなっ!?』
もう効果は抜群である。
大ダメージを負った男は今にも帰りたそうだ。
「すみません」
誰に謝ったのか、分からない。
決して分からないということにしておこう。
遠くなる男の背中を少女は見送る。
そして、周りを見渡しまた寂しさを覚えた。
俯き、思い出したかのように顔を上げる。
再び視界に男が写る。
遠いその姿に少女は声を張り上げた。
『まさかっ!帰らずに私と一緒にクリスマス・イヴを楽しむんじゃないだろうなっ!?』
声が聞こえたのか、男は振り返る。
「じゃあ!そうしてやろうかっ!帰らずに一緒にクリスマス・イヴを楽しんでやろうかっ!」
その返答に、少女は微笑んだ。


聖なる夜に独りの妖怪と出逢いました。