雷雨’s blog

現実を書こう!

ONE PIECE 25周年記念夢小説 続(2) サー・クロコダイル(微恐)

止まない雨は無いというけれど
明けない夜は無いというけれど


🏴‍☠️雨垂拍子🐊


あれから二週間が経ち、女はすっかり元気になっていた。
だが。

「まだ駄目ね」

オールサンデーはそう言って、女の左腕に重苦しい腕輪をはめた。
それは海楼石で作られた腕輪で、能力者の能力を抑えることができる。
女はそれを見て、悔しそうに唇を噛んだ。
濡れた髪から1滴雨水が滴り落ちる。

「雷雨、少し休んで昼食にしましょう」

「…っ」

雷雨と呼ばれた女は無言で頷き、重たそうに左腕を抱えながら、アジトへと戻っていく。
その後ろ姿を見つめながら、オールサンデーは溜め息を吐いた。
社長室のテーブルに並べられた豪華な食事を三人が囲む。
クロコダイルは葉巻をふかし、左右を見た。
音1つたてずに食事をするオールサンデーに、1口も口をつけない雷雨。
「辛気臭ェ」の一言に、オールサンデーはにこりと微笑む。

「…で、調子はどうなんだァ?」

「駄目ね」

「…」

オールサンデーの短い返答の後、沈黙が続く。
クロコダイルは雷雨を見て、「食え」と低い声で促した。
一瞬肩をびくつかせ、雷雨の手が恐る恐るナイフとフォークへ延びる。
考え事をするような仕草でクロコダイルは葉巻の煙をいつも以上に吐いた。

「計画に間に合わねェようなら…」

雷雨の耳元でさらさらと音が鳴り、彼女は驚いて立ち上がる。
ナイフとフォークが音をたてて転がり落ちた時、彼女の額から冷や汗が伝った。
彼女の目の前で砂が蠢き、首を掴むようにそれらが食い込み始める。

「殺すぞ」

雷雨は苦しそうに膝をつき、クロコダイルを見た。
声が出ず、息も出来ない。
そんな彼女の姿を見下ろして、「クハハハ」とクロコダイルは笑うのであった。

「てめェの存在価値はてめェで勝ち取らねェとなァ?」

「…っが…はっ…ごほっ」

砂から解放され咳込む雷雨に、オールサンデーは自身の能力を使って、彼女の背中を優しく叩いた。
「情はいらねェぞ」とクロコダイルはオールサンデーを一瞥し、席を立つ。
重い扉が音をたてて閉まり、残された二人は顔を見合った。

「もう諦めて去ったらどう?」

「…」

「このままだと、あなた死ぬわよ」

雷雨は焦りを感じていた。
二週間前に命を拾われ、能力をコントロールするのを手伝ってもらい、今に至るが未だに結果が出ない。
海楼石の腕輪をつけなければ、雨雲は室内でも発生し、彼女の身体ごと辺りを濡らす。
クロコダイルに雨水がかかってしまったこともあり、その度に彼の怒りを買った。
そろそろ彼の我慢も限界だということだろう。
「計画に使えなければ替えは考えてある」
そんな声が数日前に聞こえたばかりであった。
だが、それでも。

「…最後まで諦めたくない」

オールサンデーは信じられないという顔で、雷雨を見た。
何故そこまで固くなに頑張るのか、彼女には理解できなかった。

「それなら、3日以内よ。それ以上は彼も待てないわ」

「分かった」

そして、雷雨本人すらも理解はしていなかった。
海楼石をつけたまま逃げ出してしまえば済むものを、何故命を危険に晒してまで諦めたくないのか。
それを知りたくもあった。

「1つだけ聞きたい」

「何かしら?」

一拍間を置いて、雷雨は緊張を含んだ声で疑問を投げ掛ける。

「私の替えって?」

オールサンデーは切ないような、少し動揺を滲ませた複雑な表情で、重い口を開いた。

「ダンスパウダーって知ってるかしら?」

「知らない」と雷雨は首を横に振る。
オールサンデーは溜め息を1つ漏らして、俯き加減で話し始めた。

霧状の煙を発生させて雲中に散布することで雲が成長し、雨を降らせることができる粉のことよ…しかし、それによって風下にある場所は雨が降らなくなるの。世界政府は、ダンスパウダーの製造、所持を禁止しているわ

「へぇ、そうか」

「…つまり、あなたは用済みになるのよ?」

情が移ったといえばそうだ。
オールサンデーの心に小さな棘が刺さったように何かが引っ掛かる。
雷雨を助けてからというもの、クロコダイルよりも彼女との時間を多く過ごしている。
(情はいらねェぞ)という言葉を反芻し、後悔の色が浮かんだ。
繋がりというのは厄介なものだと、オールサンデーは思った。

「まだいたのか、てめェら」

社長室の扉を半分程開けたところで、クロコダイルは二人を見た。
気にせず大股で歩き、奥にある黒皮の椅子へ腰掛けると、山積みとなった書類に目を通し始める。
彼は冷めた珈琲カップを手に取り、一口飲んで新しい葉巻を取り出した。

「…」

雷雨が無意識にそれを見ていると、クロコダイルにギロリと睨まれる。
瞬時に彼女は目を逸らして、落ちていたナイフとフォークを拾い、冷めた料理を片付け始めた。

「てめェには期待しちゃいねェ」

ふぅと煙を吐いて、クロコダイルは書類にサインをしながら続けた。

「せいぜい頑張ることだな」

"死なねェように"


TO BE CONTINUED