雨が止まねェ…
鬱陶しいくらいだ
🏴☠️帆待雨🐊
ここ最近降り止まない雨にクロコダイルはうんざりしていた。
特に何をするわけでもないが、濡れるのを避けて外出をしたかった。
街の外壁を伝って雨水が音をたてて跳ねる。
水溜まりではしゃぐ子供たちを横目に、クロコダイルは傘を差して歩きだした。
「…」
ショーウインドーの着飾ったマネキンがふと、目についた。
それは女物の服で、クロコダイルとは無縁の品なのだが。
横には「大人気のトレンド服」と書かれており、値段もそこそこする。
この服に金を払う輩を想像して、「くだらねェ」と言わんばかりにクロコダイルは葉巻の煙を吐いた。
「プレゼントにいかがですか?」
その場から離れようとするクロコダイルに、店主が声をかけた。
「このお洋服、綺麗でしょう?奥さんへのプレゼントに買っていかれる方が多いんですよ」
声をかけられた煩わしさに溜め息を吐いて、
「…俺には必要ねェな」
とバッサリ切り捨てる。
店主は「残念」と店の奥へと引っ込んでいった。
少し酒を飲むだけと、出てきたはいいものの、辛気臭い酒場が立ち並ぶ。
「…もう少しマシな店は無ェのか」
ポロリとクロコダイルの口から独り言が漏れる。
すると、目の前の角から女が現れ、回避する間も無くぶつかった。
『すみません…』
女は一言謝ると、俯きながらゆっくりと歩いて行く。
傘も差さず、ずぶ濡れの女の背に目をやりながら、クロコダイルは眉をひそめた。
「妙な女」
ただ気にすることもなく、歩みを再開すると、激しかった雨が徐々に降り止んだ。
上がったかと、空を見やるクロコダイルの目に不思議な光景が写る。
どす黒い雨雲が真っ直ぐ途切れていて、切れ目から青空が覗いているのだが、雨雲は四角い塊のまま移動している。
それは自然的には見えず、何かしらの力が働いてるのは明確だった。
「…」
雨雲が動く先には行き交う住民たちがいる。
その中に能力者がいるということだろう。
(見つけたところで、何だっていうんだァ…?)
そのような考えに至り、クロコダイルは鼻を鳴らした。
能力者など世界には山程いる。
雨ごとき能力に関心するほど、クロコダイルの経験値は浅くなかった。
「……だが」
水が弱点の自分にとって、この能力は後に脅威となりうるかもしれないと、足を止める。
苛立ちを隠すこと無く舌打ちをすると、クロコダイルは振り返り、雨雲の様子を見た。
雨雲は少し先で止まっている。
つまり、能力者も歩みを止めている。
(どいつだってんだ…?)
立ち止まっている住民は5人程。
1人歩きだして、また1人。
雨雲は動かない。
「…」
しばらく待つも、一向に動かない雨雲にクロコダイルは「面倒だ」と諦めた。
酒場に向かおうとした時、雨雲が突如動きだす。
住民たちに目を向けると、1人歩きだした者を見つけた。
それは先程ぶつかった妙な女だった。
「おい」
女は声をかけられ、静かに振り向く。
「この雨はお前が─…」
言い終わる前に女の身体がグラリと横に倒れ、鈍い音をたてた。
「…」
女に意識は無く、荒い呼吸で苦しそうに眉間に皺を寄せていた。
周りで住民たちがヒソヒソと話し始め、「医者を呼ぼうか」と声があがる。
クロコダイルは「面倒なことになった」と言わんばかりに葉巻の煙を吐くと、女を肩に担ぎ、アジトへと歩きだした。
「あら、何事かしら?」
アジトへ着くと、ミス・オールサンデーが首を傾げてクロコダイルへ問う。
女をベッドへ下ろし、少し濡れた前髪をかきあげて、クロコダイルは口を開いた。
「…この女から話を聞け」
「意味が分からないわ」とオールサンデーはベッド脇の椅子へ腰をかける。
女の顔を覗いて、ハッと気づいたようにクロコダイルを見た。
「この子、熱があるじゃない」
「…介抱してやれ」
「勝手ね」
「何か言ったかァ?」
オールサンデーは「いいえ」と首を横に振り、バケツに水を汲んでこようと部屋を出ていった。
部屋にクロコダイルの舌打ちが響く。
女の顔を見て、先程の一件を思い出す。
これからどうしたものかと思考を巡らせて。
(使えねェなら殺すか)と結論を出し、部屋を後にした。
廊下でオールサンデーとすれ違い、ふと何かを思い付いたクロコダイルは「おい」と彼女を呼び止めた。
「何かしら?」と振り返ったオールサンデーにクロコダイルは口の端を不敵にあげて。
「計画に雨を使う」
TO BE CONTINUED