雷雨’s blog

現実を書こう!

ケィア・モルヘンの戦い エスケル夢小説(甘)

※原作またはゲームとは少し異なります。
 ご了承ください。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
―偶然の法則―
彼らは見返りに求め、そして棄てた・・・
●闇の果てに●
ケィア・モルヘン
かつての故郷に少女は再び足を踏み入れる。
だが、それは里帰りではなく、闘うためだった。
記憶の片隅にある美しい景色は氷に包まれ、復讐の炎でも溶けることはない。
心まで凍らされた彼女はただ冷徹に冷酷な裁きを下す覚悟を決めていた。
「迷いはあるか?」
王の問に少女は静かに答える。
『ない』


同時刻、白髪の男は森を駆け抜けていた。
「ゲラルト!速いわ!」
必死に追いかける女は魔法が途切れないように詠唱し続ける。
「いいか、俺が合図をしたら、あっちに合図を送れっ!」
二人は暫く走ると、ゲラルトと呼ばれた男が突然立ち止まった。
女も慌てて物陰に隠れる。
「何?」
「・・・奴等だ。まだ将軍等の姿は確認出来ないが。」
「どうするの?」
「片付ける。将軍の姿を確認したら合図を送る。」
「まっ待って!ゲラルトッ!!」


ブォッ、ブォー!!
森中に広がる笛の音に彼らは立ち止まった。
「始まりましたか」
「・・・王、命令を。」
将軍等が一斉に王に向き直る。
「・・・散れ・・・」
その言葉と共に航海士は門を開いた。
と同時に彼らは次々と門を潜り抜ける。
最後に少女が歩を進めると、王は言った。
「お前の父の首を持ってこい」


「イェネファー!!大丈夫かっ!?」
城の最上階で倒れていた女を白髪の老人が助け起こした。
「・・・まずい、結界が破られたわ」
「大丈夫だ、ワシ等が何とかするっ!!」
城の中に門が開かれるのを彼は確認すると、下にいる者達に合図を送る。
それに答えるように彼らは敵に目掛けて走った。


散々に飛んだ将軍等は城の中で煙と炎を避けながら、お目当てを探す。
王への貢ぎ物、それは
「シリか?」
一人で降り立った少女は足を止めた。
敵がいない場所を選んだつもりであったが、先客が一人いたようだ。
振り返ればそこには顔に傷痕を残したウィッチャーが一人。
「・・・雷雨、何故だ?」
視線がぶつかり合う中で男は続けた。
「お前がワイルドハントに堕ちるなんて、そんなの有り得ない。理由があるんだろ?」
『・・・ヴェセミルは何処だ?』
以外な答えに彼は目を見開いた。
「何を言っているんだ?お前等の目的はシリだろ??」
『私の目的は彼しかいない。』
吸血鬼特有の鋭い目を現すと、彼女は腰に指した短剣に手を置いた。
『去れ、私は貴方に用はない。』
「・・・嫌だと言ったら?」
男は剣を抜いた。
『私の邪魔をするなら、消えてもらう。』


「トリス!結界を突破されたっ!!戻るぞ!!」
「そんな簡単に言わないでよっ!!」
急いで女は門を城内に繋げた。
「さぁ!行って!!」
「お前はどうするっ!?」
「残って、こいつらを燃やしてやるわっ!!」
ゲラルトは一つ頷くと、門を走り抜けた。
門が閉じられると、トリスは詠唱し、構える。
両手に作られた炎の勢いが増した。
「かかってきなさい!」


剣がぶつかり合う音が静かに響く。
何者にも邪魔されない二人の闘いは二人に焦りと不安を募らせた。
「そろそろバテてきたんじゃないのか?」
ウィッチャーの力量に半吸血鬼が敵うわけもなく、少女は思わず片膝をつく。
『・・・遊んでないで、早く片をつけたらどうだ?』
「お前を殺したくはない」
『そうか、なら、その言葉を言えなくさせてやろうか』
「何を言って・・・っつ」
男は急にふらつく視界に驚きを隠せない。
世界が歪み、音が鈍い。
剣を地に突き刺し、体勢を整えようとするも、力が入らない。
「・・超・・・音・波」
吸血鬼にしか聞こえない音が彼の脳を蝕んでいた。
『終わりだ、エスケル
地に伏せる男に彼女は矛先を向けた。
「やらせねーよ!!」
突然の突進に彼女は対応することも出来ずに吹っ飛んだ。
壁に勢いよく背をぶつけると、超音波も解ける程に意識を失いかける。
「大丈夫かよ?」
「あぁ、なんとかな。ランバート、お前がいなきゃあ、死んでた。」
「礼は弾んでくれよ。・・・さて、あいつはどうする?」
剣を抜こうとするランバートエスケルは制した。
「・・・今回は俺に任せてくれ」
ランバートは頷くと、次の戦場へと駆けていった。
淡々と近づく足音に彼女はどうすることも出来ない。
歪んだ視界と失った視力が重なり、状況も分からない。
そんな時、突然、視力が戻った。
「これだろ?」
『・・・』
「お前が消えた日、部屋に残ってた。窓が開いてて、部屋が荒らされてて、お前の姿がなかったあの日だ。まだハッキリと覚えてる。誰かに連れ去られたのは一目瞭然だったしな。ずっとお前を捜してた。」
少女は目の前の懐かしい眼鏡を触った。
『・・・騙されはしない。あの日は貴方達が私を棄てた日だ。』
(そうだ、ウィッチャー達はお前を棄てた)
エスケルのすぐ後ろで門が開いた。
航海士と共に現れた王にエスケルは剣を向ける。
「ウィッチャーよ、大人しくあいつを渡して貰えば、命までは取らない」
叫びながら突撃するエスケルを航海士が迎え撃つ。
王は手下を従え、その場を去った。
度々意識を手放しそうになる少女は、ただ男を見ていた。
うろ覚えな記憶を辿りながら。
彼は彼女の最初の友人であり、仲間であり、家族であった。
彼から人脈が広がっていったのを彼女は懐かしんだ。
しかし、記憶に白髪の老人が現れると、少女は唇を噛み、俯いた。
そして、目の前に剣が飛んでくると、再び男を見た。
エスケルが倒れている。
絶体絶命の危機に彼女は迷った。
だが、もう既に航海士の剣は振り下ろされた。
その瞬間に少女は目をつむる。
響いた音は肉を切る音ではなく、刃を刃で受け止める音であった。
目を開くと、彼を助けた張本人、そして、今回の目的である女がそこにいた。
「シリ!!何故来た!?」
エスケルが叫ぶと、シリは瞬間移動で航海士の背を切りつけた。
「私がいなきゃ、死んでたでしょ!」
「・・・そっそれはそうだが、これはお前を守る闘いだ。お前に何かあったら困る!」
「私の身は自分で守る!だから、気にしないで!!」
そう言い放つと、彼女は走り去っていってしまった。
エスケルは、弾き飛ばされた剣を拾おうとして、驚いた。
辺りを見渡すも、少女の姿がなかったのだ。
剣だけがその場に寂しく残されていた。


王の背目掛けて、足音は近づいた。
剣を降り下ろすも、華麗に避けられる。
「ほう・・・捜す手間が省けたな。」
「貴方が私を探してるって聞いてね、返り討ちにしてあげようと思って。」
白髪の女は構えた。
「だが、闘いは無用だ。」
将軍の一人が白髪の老人を捕らえているのをシリは確認すると、鋭い眼光を王に向けた。
「来い」
「・・・卑怯者」
「シリ!やめろ、行くな!ワシはどうなってもいい!!」
「さて、どうする?」
そこに、一本の火矢が放たれた。
「裏切る気か?」
屋根から弓を構える少女は答える。
『・・・次は外さない』
「覚えたての弓術で何が出来ると言うんだ?復讐はいいのか?」
『私は私なりの復讐を果たす。それまでは、生きていてもらわないと困る。』
「お前は恩を仇で返すようだな。」
二人の会話の間に捕らわれた男とシリが合図を掛け合った。
「雷雨!」
『・・・』
「すまなかった、お前を見つける事が出来なかった。こんな形とはいえ、また会えて良かった。ワシを許さなくていい、だが、これだけは覚えていてくれ。お前を決して棄ててはいない」
『ヴェセミル!!』
ヴェセミルとシリは同時に動き出した。
剣を振り、敵を薙ぎ倒す。
が、ヴェセミルの力は衰えていた。
将軍に深傷を負わせるも、返り討ちにあってしまった。
「ヴェセミルおじさん!!」
息絶えるヴェセミルの姿にシリは理性を失った。
視界が真っ白になると、全てが凍り付く。
ワイルドハント達は危機を察して、撤退した。
逃げ遅れた仲間たち諸とも氷付けにすると、シリは意識を手放した。


少女が意識を取り戻したのは、数時間後である。
牢屋で目を覚ますと、そこに用意された食事に目がいった。
「食え、元気が出る。」
そこにいたのは、エスケルであった。
『食べても仕方ない。私は死刑でしょ。』
「・・・ヴェセミルの弔いがすぐ行われる。来るだろ?」


組まれた木材に炎が揺らめく。
既に弔いは行われていた。
その場にエスケルと雷雨が姿を見せると、全員が目を向けた。
冷たい視線に耐えきれない雷雨は目を伏せ、両手首につけられた鎖を見つめる。
そんな彼女の肩をエスケルはそっと抱き締めた。
「皆、分かってる」
『・・・』
ヴェセミルの遺体が灰になると、彼らは各々の贈り物をヴェセミルへ贈った。
追悼が終わるとそれぞれがまた違う旅へと出掛けて行く。
だが、シリは彼から離れようとはしなかった。
ゲラルトもまたシリの傍に寄り添い見守っている。
「最後に何かあるか?」
エスケルの問に雷雨は答えなかった。
そして、辺りが突然冷気を帯びる。
「雷雨!馬鹿げたことはやめ・・・」
そう言いかけて言葉に詰まる。
目の前の雷雨が持っていたのは一輪の氷の花であったからである。
『最期に信じてみようと思った。本当に棄てたのではないと。』
「・・・雷雨」
『ハッキリ言うと、覚えていないんだ。その日のことを。ただ、私はワイルドハントに拾われ助けられたと信じていた。記憶はその日を思い出させてはくれなかった。だから、彼らの言葉を信じるしかなかった。』
氷の花を手向けると、雷雨はエスケルに目を向けた。
一つ頷き、膝から崩れ落ちる。
『一振りで終わらせてくれるのだろう?ウィッチャーの力量ならば。』
首を差し出すその姿をエスケルは見つめた。
ゲラルトとシリも静かに見守る。
「・・・お前は生きなければならない。」
『っ!?』
目を見開く彼女にエスケルは続ける。
「言っただろ、俺等はお前を捜してたと。やっと見つけたんだ。手放すわけがない。」
「・・・一番貴女を心配していたのはヴェセミルおじさんよ。私の捜索と貴女の捜索を行った。」
「そうだ、俺達はお前達の捜索を怠らなかった。消えたその瞬間からな。」
シリとゲラルトは互いに顔を見合わせた。
「・・・雷雨、俺と来ないか?」
意外な誘いに雷雨は戸惑いを隠せない。
そんな彼女の手首の鎖をエスケルがほどいた。
「ふん、そいつと旅だと?雷雨、やめておけ。そいつは角がついた女じゃないと嫌らしいからな。」
「なっ!?そんなことっ!?」
エスケルってば、そうなの??」
「シリまでっ!?」
『ふっ・・・』
思わず雷雨は笑った。
まるで、昔に戻ったかのような不思議な感覚であった。
「これは、お前の懺悔の旅だ。断ることはないよな。」
『・・・宜しく頼む。』


偶然の法則、それは、まだ見ぬ奇跡。
まだ見ぬ贈り物。
子は宝であり、神からの贈り物であった。
それを、彼らは求めた。
世代を、光を繋げる為に。
だが、それは大きな闇を生み出し、混乱を招く。
いつしか、彼らは知るだろう。
己が犯した罪を。
二人の旅に真実が舞い降りた時、彼らは選ばなければならない。
戦うのか、逃げるのか。
その日まで・・・。


       ケィア・モルヘンの戦い 完