雷雨’s blog

現実を書こう!

東京喰種/古間円児/切甘

雪が降る度に思い出す。
あなたは今、どこにいますか?


±Love hidden in the blood±


『ねぇ、古間さん。今日の約束忘れてるでしょ』
「え」
いつものようにあんていくに訪れた少女は従業員である男を睨んだ。
蛇に睨まれた蛙のように男は動けない。
「きょ、今日の約束・・・あ、うん。忘れてないよ」
『嘘つき・・・映画館行くって言ったのに、仕事入れてるじゃん』
静かに珈琲を飲む少女。
その隣で掃除をしていた従業員の女は溜め息をついた。
「あんた、デートの約束破るのは男としてないわ」
『入見さん!デッデートじゃないって!』
慌てて訂正するも、自然と入見の顔はにやける。
「雷雨がそう思ってても、こいつは違うのよー?」
「カヤ!」
男の顔は真剣そのもので、さすがの入見もごめんと謝った。
空気が一気に重くなり、雷雨も居づらいのか、そそくさと帰り支度を始める。
会計を済まし、外に出ようとしたその時。
男は一言。
「送るよ」


雪が降り積もった道を二人が歩く。
端から見れば、それはカップルのようで。
なんとなく雷雨は嬉しかった。
「なぁ、ごめんな。忘れてたわけじゃないんだけど、今日、どうしても外せなくなってな」
突然、切り出され男の顔を見上げる。
太陽の光でよく見えない。
『別に・・・連絡してくれれば良かったのに・・・で?外せない用事って?』
少しの沈黙の後、男は口を開いた。
「・・・あんていくの閉店準備」
『え!?』
驚きのあまり、言葉が続かない。
そんな彼女に男は笑顔を向けた。
「大丈夫、次の仕事はあるし!心配すんなって!」
『・・・いや、まぁ、それもそうだけど・・・いや、そうじゃなくて。・・・残念だね・・・結構、雰囲気良かったのに』
「まぁな」
男が立ち止まると、少女は何事かと振り返る。
不思議そうに見つめる彼女。
その視線が心に突き刺さる感覚に男の顔も歪む。
『大丈・・「なぁ、こんなこと言いたくないし、タイミングも間違ってると思うんだけど・・・言うわ!」
雷雨は頷いた。
「俺さ、カヤのことが好きなんだよね。だから、お前といると勘違いさせるっていうか・・・だから・・・」
『分かった』
最後までは聞きたくないとでも言うように、雷雨はひきつった笑顔を見せる。
一つ深くお辞儀をした後、彼女は走った。
どんどん小さくなる後ろ姿を男はただ見つめることしか出来なかった。


男が店に戻れば、もう夜で、客は誰1人いない。
入見がカップを拭いているだけだった。
男の姿に気付くと、落ち着いた雰囲気で声をかける。
「きちんと言ってきたの?」
「あぁ」
「彼女は何て?」
コートを椅子にかけ、その隣に男は座る。
珈琲を一つ頼み、顔を附せた。
「俺、傷つけたかもな・・・」
「・・・私達は幸せになんかなれない・・・なっちゃいけない・・・そうでしょ」
「それはどうだろう」
奥から出てきた店長である男に二人は頭を下げる。
「私達は幸せになってはいけない・・・そんなルールはどこにもないよ」
店長は入見のカップを手に取り、男が注文した珈琲を注ぎ始める。
その姿に入見は男の隣へと移動した。
「芳村さん・・・でも、俺・・・」
芳村と呼ばれた店長の男は珈琲を差し出す。
そして、入見の分も注ぎ始めた。
「生きていれば幸せになれる、そうは思わないかい?」
二人は顔を見合わせた。
「・・・芳村さん、俺もカヤも最後までついていきますから」
もう決めたことと付け加え、二人は笑う。
芳村はそんな二人に微笑み返した。


「俺は本当に嘘つきだよなぁ」
「何よ、いきなり・・・」
金木に助けられた二人は建物の影で休んでいた。
傷つきすぎたその身体はもう動かすことも出来ない。
「デートも、今回のことも嘘ついて・・・挙げ句には好きじゃないって嘘ついて・・・」
面を外し、入見は口を開く。
「あんた、馬鹿?・・・私、きちんと言えって言ったのに・・・」
「だよなぁ・・・でも、死ぬって分かってて言う奴がいるかよ?」
力を振り絞り、立ち上がる。
誰にも見つからないように二人は歩き始めた。
「だから、尚更、言うの。・・・もう伝えられなくなるかもしれないから言うの」
「・・・後悔しかねぇなぁ」
血が滴り落ちる。
あまりの痛みに膝をついた。
そんな男に女は肩を貸す。
「なら、帰ったら言ってあげな。雷雨はあんたの言葉を待ってる」
「・・・あぁ」


3年後。


『トーカさん!聞いてよぉ!!また、学校でやらかした!』
「またぁ?今度は何やったの??」
:reと呼ばれるカフェで、トーカと呼ばれた店長と客である少女は話に花を咲かせていた。
そこへ二人客が訪れる。
「いらっしゃいま・・・せ」
トーカの顔に一筋の涙が流れる。
その後ろで少女は顔を傾けた。
トーカに隠れ、よく二人の姿を確認出来ないのだ。
「トーカちゃん、久しぶり」
「元気そうね」
懐かしい声色に少女の目は見開かれる。
「雷雨」
目に入った姿に雷雨は微笑んだ。
『おかえり』
「ただいま」


―俺はここにいるよ―


「ずっと好きだった」