雷雨’s blog

現実を書こう!

BIOHAZARD RE:3発売記念夢小説/Alex Wesker(百合)

鳥籠が鳥を探しにやって来た
しかし、鳥は消えてしまった
鳥は変わったのだ


† Bird cage owner †


『ナタリアッ!止まりなさい!』

ゆっくりと振り返るその顔に、不敵な笑みが浮かぶ。

『やはり、あなたは危険分子だった』

「いいえ、雷雨…それは違う」

銃口を少女に向けたままの雷雨の表情は険しさを増す。

『何故、私の名を知っているっ』

「人間を吟味せよ。疑う者には疑わせ、信じる者には信じさせよ」

『っ!!!』

雷雨の手が震え始める。

何かが記憶の中で暴れだすのを感じた。

それは断片的にではあるが、着実に過去を思い出させている。

「雷雨…あなたは忘れてしまっている。私を、私の全てをっ!……思い出して。……品行方正な人物を装うのは止めなさい。あなたはあなたらしくいていいの…あの頃のようにね」

差し出した手が一瞬で突き放される。

それでも、ナタリアは笑みを浮かべて、雷雨を見据えた。

「いつまで、私を拒むことができる?」

『…私はあなたを知らないっ…』

視界が歪み、ふらつく雷雨の手からハンドガンが落ちる。

「誰もが真実を見ることはできない。しかし真実であることはできる。」

フランツ・カフカの詩を口にしながら、ナタリアは雷雨ににじり寄る。

もう少し、あと少しで手が届くというところで、彼女は何かの気配を察知して、顔をあげた。

誰もいないはずの闇の中に、誰かが立っている。

しかし、闇に紛れたそれが何かを視認することはできない。

「…邪魔をするのは誰?」

少し間を置いて、それは暗闇から現れた。

意外な人物ではあったが、ナタリアは依然落ち着いて、その名を呼んだ。

「…バリー」

「その子から離れてもらおうか、ナタリア」

ナタリアに銃口を向けながら、バリーはゆっくりと近づく。

それとは反対にナタリアは一歩ずつ後退りした。

「銃を下ろして…お願い…おじさん」

昔のように語りかけてくる彼女に困惑しながらも、バリーの指は引き金におかれたままだった。

「どうして?おじさん…私よりもその子が大事なの?」

足下で踞り、苦しみの声を上げる名前も知らない女の姿が視界の端でちらつく。

彼女の叫び声が痛々しい。

「もうあれから、9年か…ナタリア…いや、アレックス・ウェスカーだったな」

突然、雷雨の目が見開かれる。

断片的な記憶が一つの映像となって、彼女の視界に広がっていった。

(「最高のデータが取れたわ!雷雨、実験は成功よ!誰一人として生き残りはいないっ」)

(『やっぱり、アレックスはB.O.W.の扱いが上手いね』)

(「そんな煽てても、何も出ないわよ?」)

(『分かってるよ…ただ、もっと見たいなぁ…アレックスの実験』)

銃口を背にして立ち上がった雷雨と、ナタリアの互いの視線が交わる。

「おい、そこをどけっ!」

バリーは退くように促すが、一向に動く気配はない。

痺れを切らし、彼女の肩に手を置く。

素早く振り向かれるのと同時に、その手に握られたハンドガンに気づいた。

しかし、避けきれずに、痛みが襲い掛かる。

片膝をついて、バリーは唸った。

急所は外れたものの、出血が酷く、すぐに手当てが必要なことが分かる。

貫通した弾丸は、すぐ後ろで形を歪ませて転がっていた。

『アレックス…あなただったとはね』

雷雨はバリーに目もくれず、ナタリアを見据える。

「やっと思い出してくれた…雷雨、私はあなたを待っていた…早く、早く、あの頃のように二人で人を甚振ろう!」

興奮し、駆け足で抱きつくナタリアを強く抱き締める。

懐かしい香水の匂いが雷雨の鼻孔をくすぐった。

昔常に感じていた愛しさが、脅威的に込み上げる。

『見たいなぁ…アレックスの実験』

忘れかけていた狂おしいほどの欲望が自身の中で湧き上がった。

「見せてあげよう…最高傑作を」

ナタリアは耳元でそう囁くと、唇が触れそうで触れない距離を保つ。

欲求が満たされない感覚に、不快感と快感を同時に覚え、思わず顔を背けてしまう。

『……意地悪』

「ふふっ…相変わらず、可愛いな、雷雨は。続きはゆっくりと…楽しませてあげる」

今なら気づかれないと、バリーは力を振り絞ってマグナムを拾い上げようとするも、ナタリアはそれを足で払い除けた。

「残念、バリー」

苦しむ彼に雷雨は銃口を向ける。

そして、これから起きるであろう、世界の混乱や恐怖を想像し、笑みを浮かべた。


『「ねえ、教えて。その“恐怖”を。 今 どんな気持ち?」』