雷雨’s blog

現実を書こう!

White Day夢小説/mainオリジナル,sub涅マユリ/切


日溜まり。
それは風を吹かせない。


*Admitting means the end.*


「雷雨!数学の宿題やった??」
『え、あったっけ?』
空座第一高等学校。
3月中旬のある昼下がり。
お弁当をつつきながら、二人は話していた。
「あったよー!次だよ、数学。大丈夫?」
『・・・大丈夫じゃない』
とは言いつつ、誰が見ても上の空だ。
「全く・・・最近変だよ?何かあった?」
『・・・ううん、何も・・・ごめんね、心配かけて』
弁当を半分以上残し、雷雨は立ち上がる。
「もしかして、ホワイトデー?」
雷雨の肩が大きく魚籠ついたのは一瞬で、何もなかったかのように歩き出す。
後ろを向いたまま手を振る姿はどこか悲しげであった。


「雷雨!アイツは何処だネ!?」
「現世です、マユリ様」
一方、尸魂界ではマユリの甲高い声が響いていた。
「現世だとっ!?まだあんなチンケな場所に拘っているのかネ!?」
「卒業するまでは通うと言っていました」
現世の学校、高校という場に籍を置く雷雨。
最低でも3年間は通わなければ卒業出来ないとマユリにも分かっていた。
既に雷雨は2年間通っている。
あと1年であるが、マユリはその1年をずっと鬱陶しいと思っていた。
何故なら―。
「此方に支障をきたしてどうしようというのだネ!?優先順位が違うヨ!!」
技局は人手不足に陥り、研究はおろか管理すらままならない状態になってしまったのだ。
ネム!アイツを連れ戻して来い!今すぐに!」
チラとネムは時計に目をやる。
「その必要はないかと」
「何?」
マユリの言葉に重なるように勢いよくドアが開けられる。
「・・・お前」
『ただいま戻りました』
入ってきたのは雷雨本人だった。
久し振りに向かい合う二人はいつも以上に殺気立っている。
「・・・詳細を聞かせてもらおうじゃアないカ、エ?」
『・・・卒業まで残り1年。通い続けるつもりです』
マユリは眉間に皺を寄せた。
「死神のお前が現世の学校?笑わせてくれるネ。お前が得られるものがあるとでも?」
『・・・』
口をつぐむ雷雨を気にも留めず続ける。
「お前が求めているものは違うものではないのかネ?」
少しの沈黙を挟み、マユリは椅子に腰掛けた。
「知っているかネ?現世では3月14日はホワイトデーと呼ばれ、男が女の愛に答える日だと。話によれば、男が女に贈り物をするようダ、ただ、今の現世において贈り物をしたからといって、それはただの社交辞令。必ずしも好意というわけではない」
『もう止めてください!!』
淡々と聞こえるマユリの声に雷雨は堪えきれず吠えた。
椅子に腰掛けた男は口角を上げ不敵に微笑む。
「為らば、言い給エ。全てをここで」
『・・・』
マユリから溜め息が漏れ、白い手は昔ながらの黒電話に伸ばされる。
「退学は此方から話をつけさせていただくとするヨ」
『お慕い申している方がいるのです!』
「・・・ホゥ、で?」
目を見開く男から雷雨は反射的に目を反らした。
『・・・あと1年だけ御傍に居たいのです』
「愛されないと分かっていてかネ?」
『はい』
マユリは肘をつき、机の上の茶を覗く。
反射して写る己の姿をジッと見つめた。
今までにない程、情けない表情だと苛立ちを覚える。
「お前はそれで満たされるのかネ?」
『・・・はい』
愛などと非科学的なものをマユリ自身信じてはいなかった。
それでも、目の前にいる小娘が生意気にも愛を謳うならば、興味がそそられる。
いや、本当にそれだけかと自身に問い掛けては答えが先程から出てこない。
「もう行き給えヨ」
『失礼します』
何を苦しむ必要があるのだろうか。


3月14日。
いつものように登校しいつものように授業を受ける。
それでも、雷雨の鼓動が落ち着くことはなかった。
「大丈夫?顔真っ青」
『え、うん、大丈夫』
挙動不審。
そう思われても仕方のない程に雷雨の一つ一つの動作はぎこちない。
「あの野郎」
『え?』
「あ、何でもないよ」
友人の怒りの矛先は誰かに向けられていた。
表情を曇らせたまま去っていく友人を雷雨は静かに見送る。
一人となってしまった彼女の後ろで何かが動いた。
気配に気づき、振り返るとそこに立つ人物に息を呑む。
「やっやぁ」
『・・・先生』
男の教師は、手に袋を提げていた。
目線に気づいたのか、男は笑う。
「あ、そうそうこれを渡そうと思って。ほら、ホワイトデーでしょ?お返し」
『ありがとうございます』
深々と頭を下げれば、何故か男も頭を下げた。
礼儀正しいというのか、腰が低いというのか。
よく分からない男である。
それでも、雷雨の目には光が灯っていた。
「じゃ、そういうことで・・・」
『あっ、あの!』
「ん?」
思わず呼び止めてしまったことに雷雨は頬を赤く染める。
真っ白な頭の中で言葉をようやく紡ぐと、震える声でそれを発した。
『こっ、今年も居てください!』
「・・・」
呆気にとられた男は言葉を失うも、何かを思い出し、吹き出した。
『?』
雷雨は何も分からず首を傾げる。
「去年も同じこと言ってたよ、雷雨」
『そっそうでしたっけ?』
恥ずかしさが込み上げ、顔を手で覆う。
そんな彼女の姿に男は微笑んだ。
「・・・残念だけど、まだ分からないよ」
『そうですよね・・・』
だけどと男は続ける。
「例え、居なくなろうと、ここの学校の生徒のことは忘れないよ。もちろん、雷雨のことも」
生徒という言葉に雷雨はどこか寂しさを感じてしまった。
涙を堪えるようにひきつった笑顔を男に向け、口を開く。
『私もです』


「マユリ様」
「何だネ?」
ネムは実験中の男に問いかけた。
「何故、雷雨様の理由を知っていながら聞いたのですか?」
「アイツの口から聞きたかっただけだヨ」
的確に処置をしていく姿を見つめネムはもう一つ聞いた。
「何故、雷雨様を見ようとしないのですか?」
マユリは一瞬固まると、握っていたメスを静かに置く。
目だけをネムに向け、一言言い放った。
「質問の意味が分からないネ」