雷雨’s blog

現実を書こう!

クリスマス記念夢小説/東京喰種 ドナート・ポルポラ/微甘ほのぼの

いと高きところでは、神に栄光があるように、地の上では、み心にかなう人々に平和があるように。

聖書、ルカ2:14

†Sinful wish.†

『ドナートさん』

捕まった喰種達が収容される場所、コクリア。

刑務官の一人としてここに勤める雷雨は、面会室にて一匹の男と話していた。

『クリスマスですよ、亜門さんに何かプレゼントしますか?』

「…何を今更…あいつが喜ぶとも思えんな」

ドナートは溜め息をついた。

「…というより、お前さんは相変わらず生温いな…。刑務官の自覚はあるのか?」

『ふふん、働いて長いんで、融通きくんですよ』

満面の笑みで胸を張る雷雨に、ドナートは笑みを溢す。

『あ、何笑ってんですか!』

「これは失礼、あまりにも似合ってなかったものでな」

雷雨は少し頬を膨らませ、物を相手と共有できる構造の引き出しに何かを入れた。

それに気づいたドナートは引き出しからレターセットを取り出す。

「…なんだこれは」

『見た通りですよ。メッセージだけでも届けましょうか?』

レターセットを少しだけ睨み付け、ドナートはそれを引き出しに戻した。

「大きなお世話だな」

『…そうですか』

雷雨はそれを取ろうと引き出しに手を伸ばし、何か別のものが一緒に入っていることに気づいた。

恐る恐る手に取ると、それは1枚のチラシであった。

机にそれを広げ、赤丸で囲んであるところに目が留まる。

『ふーん、なんだ、ちゃんと考えてたんですね』

「だが、名前はいらん」

『分かりましたよ、私からってことにしておきます』

雷雨はチラシに目を通しながら、その場を去ろうとし、何かを思い出したかのように足を止めた。

ドナートも何事かと雷雨を見る。

『そういえば、ドナートさんは何か欲しいものとかあります?』

「…なんだ、私にもくれるのか?」

『ええ、まぁ。他の喰種にも聞いているので…、できる限りは用意しますよ』

コクリアの刑務官の中で地位が高いながら、誰よりも働き、喰種を人として扱う彼女は収容される喰種の中でも評判が良い。

それをドナートは今、実感した。

「それは、物でなくてはいけないのか?」

『いえ、やりたいことでも構いません。会いたいとかでも…無理なことはお断りさせていただきますが』

ドナートは少し考え、何かを思いつくと不敵な笑みを浮かべた。

「…食事だ」

『あ、もっと食べごたえのある肉が食べたいってことですね?』

首を横に振るドナートに雷雨は眉に皺を寄せた。

『じゃあ、見た目をもっと豪華にとか?それか、焼き加減とかですか?』

「…違うな」

『…何なんですか?』

混乱する雷雨を真っ直ぐに見つめ、ドナートは言い放った。

「お前さんと食事がしたい」

『………!?』

驚いた雷雨は言葉を失い、少ししてから口を開いた。

『私ですか…?…こっここで?』

「いや、私の部屋で構わないか?」

雷雨はいくつか咳払いをして、ドナートを見た。

『私は構いませんが…規則として、RC抑制剤を2倍投与になりますが、よろしいですか?』

「2倍だとどの程度になる?」

ドナートは二人を隔てるガラスに顔を近づけ、雷雨が持つ資料を覗く。

『そうですね…、今で一般男性と同じくらいになってますから…。うーん、一般女性か、それより下くらいですね。でも、普通に話せますし、歩けますよ』

「なら、それで構わん」

雷雨はこくりと頷く。

『分かりました。では、そのように手配しておきますので、今日の夜にまた』

「あぁ…待っている」

そして、その夜。

雷雨はいつものように仕事を終わらせ、面会室へと足を運んだ。

『どうですか、調子は?食事できます?』

目の前でぐったりとするドナートを心配そうに雷雨は見た。

「…あぁ…投与したばかりでな…慣れるのに時間がかかりそうだ…」

『今日はやめておきます?』

「…いや、せっかく食事も用意したんだろう?…ただ、部屋まで肩を貸してくれるだけでいい…」

雷雨は何も言わず、面会室の裏へと移り、扉の横で待機する武装隊員に会釈した。

カードキーをポケットから取り出し重厚な扉にかざす。

高い電子音とともに扉が開くと、雷雨はカードキーを隊員に預けた。

一歩足を踏み入れて、少し遠くで座るドナートに声をかける。

『ドナートさん、今行きますね』

少しずつ雷雨は距離を詰め、息を切らせるドナートに手を伸ばした。

が、それをドナートは勢いよく掴み、抱き寄せるように引いた。

『っ!!!』

ドナートは雷雨を受け止めきれず床に倒れると、雷雨がその上に覆い被さるように重なる。

「…おっと、これは想定外だ。やはり初めての2倍投与の体は弱々しいな」

『…あれは演技だったんですか』

「正解だ」

無邪気な笑みを溢し、ドナートは鼻をひくつかせた。

「…ほぅ…、こんな匂いだったか…ふむ」

『いつから変態になったんですか』

「いや、喰種とは皆こういうものだ…。それよりも…」

あまりにも近い距離にドナートの顔があることに気づいた雷雨は頬を赤らめて顔を反らす。

「お前さんは軽いな…、肉付きはよくないが柔らかい…」

『…うっうるさいですね』

ドナートは雷雨の頬に触れると、触感を楽しむかのように優しくつまんだ。

『…ほら、そんなことしてないで…部屋に行きますよ?食事したいんでしょ?』

「…あぁ、そうだったな…」

雷雨は立ち上がり、ドナートに手を差し伸べる。

それに掴まり、ドナートは立ち上がると、雷雨の肩を抱いた。

『肩を貸すってそういう意味でしたか』

少し怒ったように雷雨が言うと、ドナートは鼻をならす。

「……そういえば、言ってなかったな」

『…?』

ドナートは雷雨の額に自分の額をあて、ささやくように言った。

「Merry Christmas」

『………そんな発音よく言わないでくださいよ…私が恥ずかしいじゃないですか…発音よくないんだから…』

雷雨はすぐさま俯き、恥ずかしそうに笑った。

「発音なんてものはどうでもいい…大切なのは中身だ。その言葉に気持ちを込めるかどうかだと思うがね」

『…へぇ、さすが神父さん…説得力ありますねぇ…。クリスマスを祝うのも信仰心ですか?』

「まぁ、そんなところだ」

二人の会話に痺れを切らし、待機していた隊員が顔を覗かせる。

「まだ、かかりますか?」

『あ、ごめんなさい。今出ます』

「お前さんとは違って融通がきかない隊員だな」

咎めるように雷雨が少し叩くと、痛そうにドナートは顔を歪ませた。

『ごっごめんなさい。力加減誤りました、痛かったですか?』

少し慌てた雷雨を見下ろしながら、ドナートは堪らず声を出して笑う。

『…………ドナートさんっ……』

雷雨は歯ぎしりさせながら、ドナートを睨み付けた。

「すまんな、私が悪かったよ。だが、傑作だった」

『…もう!今日帰ったらふて寝です!』

「食事をするのが前提なのは優しいな」

『…くっ…』

「ほら、隊員が待っているぞ。そんなんでいいのか?刑務官主任」

雷雨は我に返り、未だに顔を覗かせる隊員に頭を下げた。

『すっすみません!今、でます!』

それから、二人は聖なる夜を無事に過ごしたという。



『……メリークリスマス……』
「何か言ったか?」
『いえ、何も』



ドナートが望んだプレゼントは、食事ではなく、雷雨に触れることだったというのは内緒の話である。