新しい年も、あなたと過ごせますように。
そんな叶わない願いを込めて。
*巳喰らいの亥*
「もう諦めてここに戻ってきなさい、雷雨」
『戻る?ここが私の帰るべき場所?笑わせないで』
雷雨は机を叩くと、大蛇丸を睨み付けた。
「ミツキも待ってる」
『だから?何』
大蛇丸は一呼吸置いてから口を開く。
「私達の子よ」
『私はあなたに細胞を提供しただけ。しかも、実験という名目でね。腹を痛めて産んだ子じゃない、あなたが勝手に一人で作り上げた子でしょ!』
興奮し息が上がる雷雨を静かに大蛇丸は見た。
「元旦だけは帰ってきなさい」
『…私にはやることがある』
怒気を込めた大蛇丸に対して少しだけ怖じ気づいた雷雨は一歩後ろへと下がる。
それを見て大蛇丸は二人を挟む机に手をかけ、前のめりに雷雨との距離を詰めた。
「ええ、知っているわ。でも、あなたも私のことは知っているわよね…忍としての実力も、手段を選ばない性格も」
ゴクリと雷雨は唾を飲み込む。
「あなた…水遁が苦手だったわよね?」
『わっ分かった!私の負け!帰るから!』
慌てる雷雨に大蛇丸は微笑んだ。
そして、それを見て雷雨は大量の冷や汗を拭った。
「聞き分けのいい子だこと」
『うるせぇ』
「何か言ったかしら?」
『何も!』
即座に首を横に振る雷雨を心底可笑しそうに笑う大蛇丸。
そんな二人を影から見る男の子が一人。
雷雨が出ていくと、そっと大蛇丸の傍へ寄り添う。
「どうしたの、ミツキ」
「…母さん、戻ってくるの?」
愛しそうにミツキの頭を撫でながら大蛇丸は答える。
「ええ、1日だけね」
それから、月日は流れ、元旦。
ミツキは扉をじっと見つめていた。
「遅いわね…」
大蛇丸もそわそわと、テーブルに並ぶお節料理に目を泳がせていた。
「…来ないんじゃないかな?母さん、忙しいんでしょ?」
「…ミツキ…」
長い静寂の後、ミツキは自らの部屋へと戻ろうとした。
が、扉を開ける音に背を向けたまま立ち止まる。
『…遅くなってごめんね…まだ元旦だよね?ミツキ』
「母さん!」
ミツキは涙を溜めながら振り向き雷雨へとかける。
突然抱きついてきたミツキに驚きながらも雷雨は抱き締め返した。
『明けましておめでとう、ミツキ』
「明けましておめでとう、母さん!」
そんな二人に大蛇丸は思わず微笑んだ。
「あらあら、そんなところで辛気臭いことやってないで、こっちに来て食べましょうよ」
『ふっ…ほら、行こうかミツキ』
「うん!」
大蛇丸はこの小さな幸せが長く続かないことをこの時感じていた。
それでもいいと、ミツキの笑顔を見て自分に言い聞かせる。
いつかまた会えるその時まで。
雷雨とミツキだけでも生かす。
彼はそう誓った。