雷雨’s blog

現実を書こう!

年越し夢小説/Battlefield 1 Frederick Bishop/切

『貴方がフレデリックのパートナー?』
その名は語り継がれる。


●successor●


徴兵されたのはまだ幼い顔立ちの少年だった。
紙に書かれた年齢はすぐに嘘だと分かる。
『銃の経験は?』
「あっあります!」
敬礼をしたまま元気よく答えるが、それも嘘だろう。
何も知らない小僧だ。
『人を殺すことへの抵抗は?』
「・・・え」
言葉に詰まる。
こんな質問は想定していなかったようだ。
『戦場での迷いは死に繋がる。そして、裏切りもだ』
「はっはい!」
『忠誠心や覚悟がない奴らはすぐに寝返る。命欲しさにな・・・だがな』
言葉を置き、顔をグッと近づける。
少年は目を見開いた。
『それを咎めることは出来ない。いいか?自分の命は自分で守れ。・・・命を一番に考えろ』
「・・・はい!」
行けと少年は奥に通される。
その姿を捉える視線には気付かずに。


「おい、アンタも合格かい?」
複数の男達と共に歩く少年に小声で一人の男が話し掛けた。
「あぁ」
「俺はアンディだ、よろしくな同期」
握手を求める男に快く答える。
「よろしく」
「・・・なぁ、さっきの審査官?あれって・・・女だよな?」
思わず立ち止まる。
そんな二人に兵士は歩けと促した。
「そうなのか?」
「あぁ・・・多分な」
話が聞こえていたのか、前を歩く兵士が振り向く。
「お前達新人は知らないようだな」
二人ははてなマークを浮かべた。
「女だからあの役職を任されている。それしかないからな。・・・だからといって馬鹿に出来るものでもない」
「どうしてですか?」
兵士に不敵な笑みが溢れると、二人は顔を見合わせる。
そんな三人に出口から漏れる日の光が降り注ぐ。
「あの女は英雄の番犬だぞ」
少年は驚きを隠せない。
その隣で何がなんだか分からない様子のアンディが首を傾けた。
「あの・・・オーストラリアの英雄の!?」
興奮気味に聞く少年に兵士は人差し指を立てる。
そして、何かを指差した。
その向こうにいたのは─。
フレデリック・ビショップ!」


一ヶ月前。
「雷雨!起きろ!目を覚ませ!」
深い霧の中、男の叫びだけが木霊した。
たくさんの死体に埋もれた少女は静かに目を開ける。
『・・・フレデ・・・リック・・・』
震える手で額を拭う。
真っ赤な血だけが掌を覆った。
「いいか、戻るぞ。立てるか?」
『・・・視界が・・赤い』
男は手を翳し、左右に動かす。
それを追うように少女の目は動いた。
「大丈夫だ。血が入っただけだ」
言い終わると同時に遠くで爆発音が響く。
急ぎめに男は少女の腕を力強く引き、担いだ。
小さな呻き声とガクッと下がる感覚に視線を足に移す。
少女の左足は引きずられたままだ。
「・・・やられたな・・・戻ったら手当てしてやる」
『・・・そんな簡単にっ・・・言わ・・ないでよ』
男は鼻を鳴らした。
『でもさ・・・もっ戻ったら・・終わ・りだよ・・ね?』
返事はない。
構わずに少女は続けた。
『・・・どうなる・・・んだ・・ろ・私』
「覚悟してたことだろ」
二人の視線が交わう。
「性別、年齢詐称野郎」
思わず笑みが溢れた。
『・・・うるさ・・いよっ・・・英雄』
「・・・周りも気付いてた・・・合格だったのはお前の資質を見込んでだろうな」
これには少女も言葉が出てこない。
「周りはお前を認めたわけだ。これは連帯責任ってやつだな・・・つまり」
いつの間にか霧は晴れている。
その事に気付いた男は照明弾を放った。
「終わりじゃない」


現在。
偵察兵として送られた英雄と少年を見送り、数日後。
突然、雷雨の元に伝令兵がやってきた。
「伝言を預かっております」
『誰から?』
敬礼を一つすると兵士は答える。
フレデリック・ビショップ殿からです」
『何?』
「「終わる」とのことです」
その言葉に一瞬固まる。
咳払いをすると、兵士に下がれと促した。
一人になると、涙が溢れ出す。
嗚咽を抑えるように口を塞いだ。


「うっ!」
気を抜いたことが仇となり、男は一発の銃弾を受けた。
すかさず打ち返すと、敵は沈んだ。
やっと静かになった中庭で、城壁を背に男は座り込む。
海に目を向ければ、一隻の船が見える。
少しして、照明弾が船から上がった。
それを見届け、男は微笑む。
「いい子だ」
空爆が始まり、辺りが爆音と炎に包まれる。
それを静かに見つめる視線は掌に移された。
少し重みのあるペンダント。
先程の銃弾をかすめたのか、半分は凹んでいる。
懐かしそうに指でなぞると、走馬灯のように情景が写し出された。


『これ預かっといてください!』
「何だこれは」
『見た通り、ペンダントです』
「いや、それは分かってる。何故、預からないといけない?そもそも何故、俺なんだ」
『パートナーだからです。それは私のお守りなんですよ』
「だったら、尚更・・・」
『大切なものを預けられないなら、一番大切な命は預けられない』
「・・・」
『ってことです』
「お前は今日から配属だったな・・・名前は?」
『雷雨です!』


ペンダントをかけ直し、鼻を鳴らす。
彼のいる中庭までもが空爆の標的になり、次々と崩れていく。
空を見上げ、迫りくるそれに男は目を閉じた。
「返せそうにねぇなぁ」


二ヶ月後。
「雷雨さん」
雪が降り頻る中、寒さに動じることなく、戦争は激化した。
それでも、今日だけは全てが止まる。
『こんな状態で年が明けるなんてね・・・』
呟けば白い息が空を舞った。
「すみませんでした」
少年は片折れの帽子を外し、胸に当てる。
『何故、謝る?』
「あの時、あんな作戦に出ていなければ・・・」
『それはフレデリックが決めたこと。死も最初から覚悟していたようですし、貴方に責任はない』
冷たく言い放たれる言葉に少年は反論しようとして、唇を噛んだ。
『感情がそこに存在しても、決して私情を挟んではならない』
深い溜め息を一つ吐き、続ける。
『私は前線から離れたあの日、友に裏切られた。友に左足を撃たれ、囮に使われたのを今でも忘れない』
「その友は・・・?」
真っ直ぐ暗闇の中の何かを睨む。
その情景が浮かんでは消えた。
『目の前で死んだ』
照明弾が0時を知らせ、和んでいた周りは慌てて動き出す。
『お前に何かあったら、連帯責任だ。期待外れにだけはなるな』
「はい!」
日の出と共に戦いは再び訪れた。
血と火薬の臭い。
爆発音と悲鳴。
赤い世界を少年は駆けた。
いつしか彼は"英雄を継ぐ者"と呼ばれ、名を馳せる。


『貴方がフレデリックのパートナー?』
「はい!」
『名前は?』


古い地図を見つめる雷雨の元に一羽の伝書鳩が舞い降りた。
メモを受け取り、地図に印を付ける。
鳩の送り主を確認すると、小さな笑みが溢れた。
フレデリック・・・まだ、終わりじゃない』


名を─。
「ジャック・フォスター」