雷雨’s blog

現実を書こう!

ONE PIECE 25周年記念夢小説 続(4) サー・クロコダイル(無)

日の光が降り注ぐように
私の心も晴れたなら


🏴‍☠️雨後の筍🐊


男は空を舞った。
意識を手放し、力の抜けた手足を放り出して。
砂と血が周囲に飛び散り、空高く男の身体が上がったかと思うと、一時停止してすぐに降下を始めた。

それを待っていたかのようにポツリポツリと何かが地面に落ちる。

コーザは手に落ちた雫に目を見開いた。

(雨だ、雨が降っている…!)

雫は勢いを増して群衆へと降り注ぎ、反乱軍と国王軍、両軍の戦いの手を止めさせた。

「戦いを止めてください!!!」

そこへ王女ビビの叫びが響く。

両軍は驚いたように時計台にいる王女を見上げ、その手から刃を落とした。

丁度その頃、空中を舞っていた男が鈍い音をたてて地面まで落ちると、周囲にいた反乱軍たちは驚いたように男を見る。
「何故こんなところに」とざわつく反乱軍を掻き分けて、海軍の女が男の傍へと歩み寄った。
「サー・クロコダイル…」


その一連を塔の屋根から座って見ていた雷雨は緊張の糸が切れたように微笑んだ。
その微笑みは誰に向けるわけでもなく、諦めに似た何かであった。
そんな彼女の元へ足音が1つ。
「どうしたの?Mr.2
雷雨は振り向きもせず、足音の主へと声をかけた。
「どうしたの?じゃないわよーう!あなた…雨を降らせたわね?」
少しの沈黙の後、雷雨は顔を少しだけMr.2こと、ボン・クレーに向けた。
「私は最後の指令を成し遂げただけだよ」
「…アンタ、何言って」
理解に苦しむボン・クレーが言い終わる前に、雷雨が両手を広げて空へ伸ばすと、雨がどしゃ降りへと変わった。
すると、反乱軍や国王軍、民衆たちが歓喜の叫びをあげ、空を仰いだ。
「何やってんのよーう!」
それを見たボン・クレーが声をあげる。
雷雨は「ふふふ」と笑って、
「だって、"戦いが終わったら雨を降らせろ"って言われたんだもん」と笑顔で答えた。
「戦いが終わったらって、こういうことじゃないわよーう!」
すかさずボン・クレーのツッコミが入るも、雷雨は気にせず雨を降らせ続ける。
そんな彼女にボン・クレーはため息を1つして、神妙な面持ちで口を開いた。
「真面目な話、この後どうするのよ?アラバスタの港には海軍が待ち構えていて逃げられないわよ…」
「…私は、クロコダイルについて行くよ」
「はァ!?」と驚いてボン・クレーは続けた。
「自ら捕まりに行くって言うのーう!?アンタ、バカじゃないッ?」
「ふふふ、捕まりに行くわけじゃないよ」
再び笑う雷雨にボン・クレーは「意味分からないわ」と吐き捨て、群衆の波へと消えていった。
その姿を見送って、雷雨はそっと立ち上がり、クロコダイルの傍にいる海軍の女に目を向ける。
(確か、"たしぎ"って名前だったかなぁ?)
クロコダイルを挟んで俯く女の前に立ち、「あの!」と声をあげれば、驚いたように女は雷雨を見た。
「私をつれて行ってくれませんか?」


たしぎという女は海兵と共にクロコダイルを船まで運び入れると、スモーカーと呼ばれる男に一連の報告をしていた。
それを背にして、雷雨は港側の渡り板の傍で別の女から尋問を受けていた。
「それで?インペルダウンの看守になりたいんだって?」
こくりと頷く雷雨に女は続ける。
「ヒナ、疑問。何でなりたいの?そもそも貴女の素性が分からないと送り届けることも出来ない」
ヒナと名乗る女に、雷雨は一度考える仕草をして笑顔を向けた。
「私、後々そうなる気がするんです」
答えになっていない答えに周りの海兵たちが小声でざわつき始める。
一拍間を置いて、ヒナは戸惑いの表情を浮かべた。
「…貴女、変…ヒナ、困惑」
ふぅとヒナは吸っていた煙草の煙を吐くと、雷雨の目をじっと見て、
「でも、気に入った」と口の端をあげた。
渡り板を渡って、スモーカーに事情を説明しようとヒナが声をかけた時、電伝虫が鳴り響いた。
「政府は今回の事件、揉み消すつもりなのよ」
と言う彼女を他所に、スモーカーの怒りは沸点に到達した。
「政府の上層部のジジイ供に伝えてくれるか……クソくらえってなァ!!」
額に青筋を浮かべたスモーカーは乱暴に通信を切って、やれやれと頭を抱えるヒナに低い声で聞いた。
「で?あの女は?」
スモーカーは雷雨を一瞥し、再びヒナに視線を移す。
ヒナは事情を説明すると、「責任は私が取る」と言ってスモーカーに有無を言わせず、下船する。
それを見て雷雨は彼女を呼び止めるように、声をあげた。
「ありがとうございます!」
ヒナは振り向きもせずに、片手をヒラヒラと振って数人の海兵と共に町の方へと消えていった。
「あいつがこんなことするなんて、珍しいな…」
ポツリとスモーカーは独り言のように呟いて、新しい葉巻に火をつける。
溜め息混じりに煙を吐いて、雷雨をジロリと見た。
ビクッと肩をあげる雷雨に顎で船に乗るように促して、たしぎの嗚咽がする部屋の横を通り抜けて行く。
スモーカーの指示で渡り板が外されようとすると、雷雨は慌てて乗船した。
少しずつ港から船が離れていき、港の人々が点のようになっていく。
長年住んだアラバスタが小さくなるのを雷雨は目を離さず見届けた。

これから始まる新たな物語に想いを馳せて─


ヒナの判断が間違いだったということに海軍が気づくのは少し先の話である。

TO BE CONTINUED