雷雨’s blog

現実を書こう!

クィレル教授夢小説/切甘

死にたがりな君をどうしても救いたかった。
●死にたがり●
昼下がり、昼食を終えた学生等が次々と外に出ていく。
一人はそれを静かに防衛術の教室から見ていた。
まるで魚を狙う熊のように視線は泳いでいた。
腰に短剣を差したその出で立ちは魔法使いとは似ても似つかない。
肩までの黒髪と感情のないような黒目はこの学校では目立っていた。
極めつけは彼女がどのクラスにも属していない事だった。
不審がられた挙げ句、仲間外れにされてしまっていた。
「雷雨、今終わりましたよ。さぁ、行きましょうか。」
研究室から出てきたクィレル教授に雷雨と呼ばれた彼女は首を横に振る。
困った教授は静かに彼女の隣に立った。
二人で外を眺める間、沈黙が続く。
暫くした後、彼女は口を開いた。
『私は死ねば良かったんですよ、あの時』
突然出たその言葉に教授は驚いた。
「何を言っているんですか!そんなこと言わないでください!」
二人の視線がぶつかる。
外で騒ぐ学生等の声が窓を通して木霊した。
『じゃあ、どうしてこんなに苦しまなきゃいけないんですか?私も皆と同じように普通に生きたかった!私はこんな魔法とか意味不明な世界じゃなくて、普通にっ―!』
最後まで言わずに言葉を切った。
魔法を拒絶することはクィレル教授を拒絶するのと同じことだったからだ。
唯一の理解者であり、唯一の大切な人を拒絶することは出来なかった。
それを知ってか教授は彼女を抱き締める。
言葉よりも行動で彼女を護ろうとした。
「分かってる、だから...もう少しなんだよ。もう少しだけ待っていてほしいんだ」
その言葉の意味は彼女にも分からなかった。
ただ、暖かい腕の中で優しい風と音を感じながら彼女は泣くしかなかった。

それから、数日後。
あの言葉の意味を理解する日が突然訪れる。
『スネイプ教授!クィレル教授は!?』
校長室に呼び出された彼女は声を荒げていた。
ダンブルドアはそれでも冷静に言い放つ。
「スネイプ、彼女を連れていってあげなさい。」
連れ出されたのは深い闇。
誰も入らないような空間だった。
奥にある鏡はとても大きく立派だ。
辺りを見渡すとそこには―。
「それしか残っていなかった。」
彼女が思わず拾い上げ抱き締めたそれ。
灰の上に被さったターバンだった。
泣き叫ぶ彼女の声はどこにも届かない。
あのスネイプでさえ、瞼を閉じた。
暫くして涙が渇れると、彼女は静かに鏡の前に立つ。
その姿に何か言いかけたスネイプをいつの間にか入ってきていたダンブルドアが制した。
「彼女には受け入れる時間が必要じゃ。別れの言葉もの」
鏡に映る自分がとても醜いように思えた。
本当にあの時に死んでいればと嘆く。
そんな彼女の隣で影が渦巻いた。
何事かと眉を細めると次第にそれは形を作る。
『クィレル...教授?』
隣で微笑む彼の姿。
鏡だけに映る幻。
彼は彼女の肩に手を乗せると、耳元に顔を近づけた。
聞こえるはずもない音が微かに響いた。

『ありがとう、教授。...さようなら...。』


きっと君も分かる日が来る。

この世界で生きていく意味が。

私はそれが君だったんだ。


「君の傍で護るから」

私の分まで生きてほしい。