雷雨’s blog

現実を書こう!

ハリー・ポッター祭り記念 セブルス・スネイプ夢小説(切)

『死ぬと分かっていて行くというんですか?』
「・・・あぁ」
●最期の願い●
月明かりが照らすホグワーツ
燃え盛る炎と共に魔法が飛び交った。
瓦礫の下に埋もれる者や攻撃から必死に身を守る者、怪我人を運びながら闘う者で溢れている。
そんな中、少し離れたところで少女は男を必死に止めていた。
『・・・どうして、貴方まで私の目の前から消えようとするんですか・・・?』
「・・・」
男は静かに歩み始めた。
その目の前で行く手を阻む少女を避けながら。
『私は貴方に死んでほしくない!殺されるって分かってるんですよね!?』
「・・・」
雲が月を覆い、光を消した。
二人の間を通り抜ける生暖かい風。
それは、彼女が体験した過去を思い出させる。
『私の大切な人は必ず皆、死んでいく。』
形も残さず崩れたそれは今も彼女の記憶の中で生き続けている。
生々しく刻まれた傷痕は未だに心から消えることはない。
『これ以上、誰かが死ぬのは見たくないっ!・・・貴方が行くと言うのなら、私は全力で止めさせてもらう!!』
短剣を抜く少女に男は一切動じない。
それどころか、再び歩み始めた。


どれ程時間が経ったのか、少女に理解は出来なかった。
目を開ければ、そこは先程まで男を止めていた場所である。
全身の痺れに彼女は驚くも、力を振り絞り起き上がった。
『・・・スネイプ先生?』
周りを見渡すが、男の姿はない。
代わりに血のついた短剣が目にはいる。
思考が間に合わない彼女はただそれを見つめた。
断片的に思い出されていく記憶。
目の前を覆う黒。
手に残る鈍い感触。
頬を伝う涙。
そして、最後に思い出されたのは耳元で優しく響く低い声であった。
『どうして・・・?』
彼女に魔法が効くはずはない。
男が何をしたのか少女には検討もつかない。
そんな時、後ろで聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向けば、遠くでハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がホグワーツに戻っていく姿があった。
我に返った少女は重い体を引きずりながら、彼らが歩いてきた方に向かう。
嫌な予感が頭の中で渦巻いては消えた。
(雷雨、これはお前のせいではない。)
『どうしてっ』
(あいつを救えなかったのは我輩だ、責めるなら我輩を責めろ)
『どうしてっ!』
(お前は独りではない、決してな)
『・・・どうして?・・・』
辿り着いた船着き場で彼女は膝をついた。
目の前で横たわる大切な人に思わず手を伸ばす。
冷たい体温が彼女の手を包みこむと、小さな叫びが森を木霊した。


夜明けと共に歓喜ホグワーツに広がった。
ヴォルデモートが朽ち、ハリーが帰還したのだ。
多くの死者を出した戦いは終息。
魔法界に平和が訪れた瞬間である。
そんな中、ロンとハーマイオニーを連れてハリーは外へ出た。
それを追う小さな影を知りながら。
彼らが行き着いたのは橋である。
ハリーが徐にニワトコの杖を取り出した。
ロンが止めるも虚しく杖は真っ二つに折られ、崖の下へと投げ込まれた。
「これで、いいだろ?雷雨」
瓦礫の影から出てきた少女は一つ頷く。
『それのせいで先生は死んだ。この世から無くなった方がいい。』
「・・・絶対に忘れない。君のことも、先生のことも。」
少女は立ち去ろうとして、何かを思い出し、歩を止めた。
『一つだけ聞きたいことがあったんだ。・・・ハリー、私には魔法が効かないのに、先生は魔法をかけれた・・・どうしてだと思う?』
「・・・君にも効く魔法が一つだけあるとしたら?」
少しの沈黙の後、ハリーは続けた。
「君は僕と同じ魔法をかけられた。」
『・・・それって・・・』
「「愛の魔法だよ」」
その一言に彼女は驚いた。
ハリーの声に誰かの声が彼女の中で重なったのだ。
幼い頃に聞いた声が甦り、昔の情景が目の前に広がった。
(「雷雨、聞いていますか?」)
(『うん!聞いてる!』)
そこにいたのは幼い自分と一人の男。
両親を早くに失った自分の面倒をみてくれた人。
(「魔法がつかえなくとも、君に魔法がかかることはないのですから、何も心配することはありませんよ。」)
(『えー!嫌だー!!魔法にかかった人、楽しそうな人もいたもん!!!』)
駄々をこねる自分にいつも優しくしてくれた。
そして、いつも傍にいてくれた初恋の人。
(「まぁ、魔法の中には良いものももちろんありますからね。」)
(『かかりたいー!』)
困った顔一つしないで微笑んで自分の頭を撫でる。
今は亡き愛しい人。
(「では、君にもかかる素敵な魔法を。」)
(『え!何々??』)
そこで記憶は途切れた。
「雷雨、大丈夫?」
ハーマイオニーが少女の顔を覗きこんだ。
少女はいつの間にか頬を伝う涙を拭い、頷く。
『・・・愛の魔法なんて信じてはいなかった。本当にあったなんて・・・。』
「・・・あの日、君はクィレル先生に守られたんだよ。本当なら、君はあの時、先生と一緒に死んでた。ヴォルデモートがそう仕掛けていたからね。・・・そして、今回はスネイプ先生に助けられた。」
『・・・先生』
崩れ落ちる少女を他所に、日の光が温かく照らし、彼らの頭上を木の葉が舞った。


19年後。
新入生を迎え活気溢れるホグワーツと同じく、ダイアゴン横丁でも新入生で道が埋め尽くされ、様々な店が賑わっていた。
オリバンダーの杖店でもそれは変わらない。
暖炉の傍で椅子に座る老人は世話しなく働く女性をただ見ていた。
『オリバンダーさん、ユニコーンの毛が使われた杖ってどこら辺に仕舞われてましたっけ?』
老人は時々、新人らしさを見せるその姿に昔、この場所で杖を買えなかった少女を重ねた。
「そこじゃよ、雷雨」
『ありがとうございます、オリバンダーさん』
オリバンダーの代わりに働く彼女は着々と仕事をこなす。
客足が途絶えてきた頃、そろそろ店仕舞いをしようと彼女は外に出た。
すると、そこに少年と男が姿を見せる。
「やぁ、雷雨。元気かい?」
『・・・ハリー!!そっちこそ、元気にしてた?ずっと見てなかったから心配したよ!』
「あぁ、元気だった。それで、今日は息子の杖を。」
彼女の視線が少年に移ると、彼女は口を開いた。
『こんにちは、名前は?』
「・・・アルバス・セブルス・ポッター」
その答えに彼女は目を見開き、ハリーを見た。
ハリーは一つ頷く。
彼女は視線を再び少年に戻すと続けた。
『そっか、いい名前だね。私は雷雨、ライウ・クィレル。よろしくね。』
三人は店に入ると、杖を選び始めた。
沢山の杖を初めて見る少年は少しはしゃいでいる。
その横でハリーは懐かしそうに目を細めた。
そんな二人の姿を見た雷雨は、何かを思いつき、一つの箱を取り出した。
「これは?」
『芯に不死鳥の尾羽根を使ってる。』
雷雨は少年に手渡すと、小さな波動が彼を包んだ。
『やっぱりか、親子だもんねー。』
「これが、僕の杖?」
父親の微笑みに少年は喜んだ。
「それにしても、不死鳥の尾羽根なんて滅多に手に入らないだろう?」
『まぁね。・・・運命じゃない?それが手に入ったのは昨日なんだ。』
驚くハリーを他所に、彼女はレジへまわる。
代金と引き換えに彼女は杖を納めた箱を決まり文句と共に少年へ渡した。
『アルバス・セブルス・ポッター君、愛の魔法が君を守りますように。』


二人を見送り、店仕舞いを終えたオリバンダーの杖店で、オリバンダーは雷雨に質問を投げ掛けた。
「あの決まり文句はどこからきてるのじゃ?」
『・・・あぁ、あれですか。あれは昔、大切な人に言われたんです。それが忘れられなくて。』
遠くを見つめる彼女にオリバンダーはそれ以上何も言わなかった。
ダイアゴン横丁で度々見かけた二人の姿を19年前のあの日から、見かけていない。
そして、ふと、オリバンダーは先程の少年の名を思い出した。
アルバス・セブルス・ポッター。


(『これ以上、誰かが死ぬのは見たくないっ!・・・貴方が行くと言うのなら、私は全力で止めさせてもらう!!』)
(「・・・雷雨・・・ありがとう。・・・愛の魔法が君を守りますように。」)