雷雨’s blog

現実を書こう!

ハロウィン夢小説/ヘクター・バルボッサ(ギャグ甘)

trick or treat!!』
「・・・」


$Sweet fruit with love.$


男の顔に青筋が浮き上がったのが、瞬時に分かった少女は悟った。
怒鳴られると。
「そんなことをほざく時間があるなら、持ち場に戻れぇ!」
男の義足が少女目掛けて投げられる。
少女は華麗に避け、船長室を飛び出した。
『おお、恐い恐い』
思わず身震いをする。
そんな彼女に甲板に立つ一人の男が声をかけた。
「おっと、その様子じゃあ、怒られたのかな?お嬢さん」
赤いバンダナに酔ったような動き。
この船に乗ることを許されない男。
『Jack!!』
名を呼べば紳士のようにお辞儀をする。
ラム酒を片手に男は続けた。
「それで?バルボッサは何で怒ったんだ?外からは怒鳴り声しか聞こえなかったもんでね」
trick or treat!!って言ったら怒られたんだよ、持ち場に戻れってね。いやいや、そんなことより、何でここに?いや、どうやってここに?』
人差し指を立てながら、ジャックは甲板を歩き始める。
「その二つの質問に答えよう。一つ、何故ここにいるか、俺もハロウィンを祝いたかったんでな。こいつで」
ラム酒を掲げ、左右に振ってみせる。
「二つ、どうやってここに来たか。昨日、お前たちはトルトゥーガにいたはずだ。違うか?」
『いたよ』
少女の答えにジャックは笑みを浮かべた。
「では、ここで俺からの問題だ。トルトゥーガだけじゃなく、陸に上がるには何かをしなければならない。それは何だ?」
少し間を置いて、ジャックは少女に顔を近づける。
たまらず飛び退いた。
「どうだ、答えは?」
『・・・船の停泊』
「正解!!」
ジャックの拍手が静かに響く。
『まさか、その時に乗った・・・』
「またまた、正解だ。すごいじゃないか」
深い溜め息を他所に、ジャックは大袈裟に手を広げる。
すると、いつの間にかグラスが二人分床に置いてあることに気づいた。
『今、船長呼んでくるから待ってて』
船長室に行こうとするも、彼女は勢いよく腕を引かれ床に倒れ込んだ。
『何?』
ぶっきらぼうな言葉に笑い声が返ってくる。
「そちらこそ何を勘違いしてる?俺は別にヘクターと飲みに来たなんて言ってないぞ」
『・・・私?』
無言で頷くジャックに少女は目を細めた。
『私はお酒が飲める歳じゃないの、お分かり?』
「それは俺の台詞だ」
無視してラム酒を注ぐ姿に水をかけたい気分だった。
「ほら、飲め」
頑なに断る少女の口にグラスを押し当てる。
渋々受け取る彼女の手を誰かが掴んだ。
「ジャック、ここで何をしている?」
二人が顔を上げれば、そこにはこの船の船長であるバルボッサが二人を見下ろしていた。
「あぁ、いやぁ、元気だったか?ヘクター」
冷や汗が滴り落ちる。
「あぁ、この通りな」
右足の義足を叩きながらバルボッサは続けた。
「それで、お前への質問の答えがまだ返ってきてないぞ」
「あっあぁ、そうだな。雷雨にも言ったんだが、そのなんだ、ハロウィンを祝いに来た」
ひきつりながらも、笑顔で答える。
「ほぅ、勝手に船に乗り込み、挙げ句には強引に酒を勧めておいてか?」
二人の視線は少女に注がれた。
「いや、断じて強引に勧めたわけじゃない。本当だ」
「そうなのか?雷雨」
詰め寄られ、首を横に振る。
その瞬間、バルボッサはジャックの襟を掴んだ。
「うちの船員に何をしてくれてる?ジャック、こういうのを現代で何と言うか知っているか?」
言葉を待たずにバルボッサは言い放つ。
アルハラだ」


その後、男二人は船長室で静かに飲んだそうだが、船員の話によると、赤いバンダナの男はずっと酌をしていたそうである。
また、少女は袋いっぱいのお菓子を貰ったそうだ。


『じゃあね、Jack!!ありがとう!』
「あぁ、礼には及ばんさ」
夜が明けると、男は船の端に立っていた。
その隣でもう一人の男は剣を向けている。
度々、つつかれると一歩前に出た。
「もう、そんな押すなよ、ヘクター」
「次にまた勝手に乗り込んだら容赦はせんぞ?」
「分かった分かった!また会う日までなっ!」
水面に飛び込んだ姿を確認すると、剣を納める。
暫くして雷雨に向き直ると、どこからか林檎を取り出した。
「お嬢さん、もう一度昨日の言葉を言ってみろ」
思わず雷雨に笑みが溢れた。
顔を出したばかりの太陽が二人を照らす。
強い風が吹くと帆がはためき、船が揺れた。
バランスを崩した少女を男が支える。
見つめ合った二人は影を重ねた。
trick or treat』


「おい!そんな甘いお菓子は誰も望んじゃいないぞ!それより、ボートくらい出してくれてもいいんじゃないかっ!?」
「まったく・・・つくづく邪魔な奴だ」