雷雨’s blog

現実を書こう!

ONE PIECE 25周年記念夢小説 続(6) サー・クロコダイル(×)

※タイトルはサー・クロコダイルですが、今回の話には登場しません。今回はハンニャバル(シリアス)になります。

 

それは悲劇だった
けれど、必要なことだった


🏴‍☠️櫛風沐雨😈


あれから数日後。
雷雨が徐々に勤務に慣れてきたある日のことだった。
(…失敗か…)
新聞を片手に珈琲を飲んで休憩中の雷雨は溜め息をついた。
記事には『クロコダイル脱獄失敗、一味数人逃走か』とある。
海軍本部に拘束されていたクロコダイルを含むバロックワークスの面々が脱獄に失敗したようであった。
数人は逃げ出したとあるが、誰が逃げられたのか。
そして、雷雨は少し妙に思っていた。
(部下が逃げれて、クロコダイルさんが逃げられない筈がない…)
「うーむ…」と唸る雷雨に、ドタドタと数人の足音が煩く響く。
驚いたように廊下を見れば、同僚たちが急いで一方向へと向かっているではないか。
「何事ですか?」
一人の男を呼び止めて聞けば、「オカマを捕まえたんだよ!!」と言って走り去ってしまった。
(オカマ?)
何が珍しいのか、雷雨には理解が出来なかった。
しかし、興味はある。
まだ冷めやまない珈琲を飲み干し、雷雨は同僚たちが向かう先へと急ぐのであった。

辿り着いたのは拷問室。
どうやら捕らえられたオカマは尋問もとい拷問を受けているらしい。
悲痛な叫び声が部屋の外まで響き渡っていた。
十数人の同僚たちが期待を膨らませて、今か今かと待ちわびている。
そんな様子に雷雨は「ついていけないな」と本日二回目の溜め息をつくのだった。
「誰が拷問を担当しているんですか?」
廊下でも呼び止めた男に質問を投げ掛けると、男は笑顔を浮かべ答える。
「署長だよ!署長の拷問はすげーぞ!」
「な、なるほどー…」
雷雨はひきつった笑みを返し、(こいつらマジでやばい)と心の中で思うのであった。
「ちなみに、何でオカマは珍しいんですか?」
「は?珍しい?」
「え、違うんですか?」
「違う、違う。今回は鬼の袖引きから戻ってきた囚人だったんだよ!」
「鬼の袖引き?」
「あ、新人だから知らないのか」と男は咳払いを一つして、低い声で語り始める。
「鬼の袖引きってのはな、囚人が忽然と姿を消すことをいうんだよ。昨日までいた奴が次の日にはいないなんて摩訶不思議な現象が起きるわけ。今まで何人もいなくなってる…俺らもよく分かってないから、いなくなった奴は死んだ扱いにしてるんだけどな…今回一人戻ってきたってんで、珍しいってことなんだよ!」
「…」
考えるように真剣な面持ちの雷雨に男は続けた。
「しかも、オカマになって戻ってきやがった…これがどういうことか分かるか?」
「いえ」
エンポリオイワンコフが関係してるんじゃないかって話だ…そいつも鬼の袖引きでいなくなってるしな
イワンコフ…?」
「それも知らないのか!」と男は驚いたように高笑いして、「じゃあ、教えてやるよ」と言ったところで拷問室の扉が開いた。
部屋の外にいた看守たちが一斉に敬礼をして、中から出てきた男を出迎える。
5m近くあるであろう巨体の男が「ご苦労」とその場を後にしようとして、何かに気づいたように歩みを止めた。
彼の視線は雷雨を捉えていて、彼女の目の前に近寄ると「見ない顔だ」と唸るように言った。
「お初にお目にかかります。最近入りました、雷雨と申します。よろしくお願いいたします」
「…あぁ、ハンニャバルが言っていた子か。こちらこそ、よろしく頼む。私は署長のマゼランだ」
そう言って、マゼランは握手を促すように片手を差し出した。
雷雨はにこやかにそれに応じようと手を伸ばす。
が、手が触れようとした瞬間、轟音が響いた。
警報が鳴り、看守室からの無線で「侵入者です!」と伝えられたマゼランに辺りは騒然とする。
「どこから入ったっ?」
マゼランの問いに、無線からは「侵入経路不明、突然内部から現れました」の声。
「人数は?」
「十数人程確認済みです」
「特徴を言え」
「武器を所持、全員オカマに見えます」
『オカマ』の言葉に、看守たちはざわつき始める。
(…仲間を救いに来たか)
雷雨は拷問室で瀕死の状態であろうオカマに目を向けた。
マゼランも敵の思惑に気づいたのか、拷問室の扉を閉じる。
それと同時に紫色のドロッとした液体が扉全体に現れた。
それを見た雷雨は(なんだこれは)と不思議そうに首を傾げる。
聞くにも聞く時間がない。
何故なら─。
「助けに来たぞぉおおお!!!」
一人の掛け声が響き、十数人のオカマたちが遠くに見えた。
「やはりな」
マゼランはヌッと前に出て、迫り来る彼らに立ちはだかった。
それを見た看守たちは「逃げろ」と近くにあった通路へと避難する。
看守たちの行動が理解出来ない雷雨はその場に留まり、マゼランの後ろでオカマたちを見据えた。
その頃、ハンニャバルが看守たちの避難する通路へと到着。
「どういう状況だ」と問えば、「署長が対応中です」と看守たちは答える。
ハンニャバルが看守を掻き分けて前へ出ると、マゼランの姿が見えた。
そして、その後ろにいる雷雨の姿も。
「何故雷雨があそこにいるっ!?」
驚いたハンニャバルに看守は「わ、分かりません」と慌てて答えた。
「雷雨!!!こっちへ来い!!!」
ハンニャバルが叫ぶと、雷雨はそれに気づいて答えるように走り出す。
が、目の前を覆う紫の霧に彼女は足を止めた。
一呼吸で身体全体にピリッと静電気のようなものが走る。
(なんだこれ)と顔をしかめる雷雨に、ハンニャバルは「急げ!まだ間に合う!」と催促した。
だが、それが聞こえていないのか、雷雨はマゼランを見る。
彼の体からは先程扉を覆ったドロドロの液体が垂れており、それが床に落ちる度に溶ける音と煙がたっていた。
(…あれは…毒?じゃあ、この霧も…)
やっと答えに辿り着いた雷雨は逃げなければ死ぬと通路を目指す。
しかし、身体に毒が駆け巡り、足を一歩出す度に激痛が伴った。
「雷雨!!!」
「駄目です!副署長!!」
雷雨を助けようとハンニャバルが身を乗り出す。
それを必死に看守たちは止めた。
「マゼラン!あんたの毒に対抗する手段はちゃんとあるんだぜぇ!」
オカマたちはマゼランの毒をものともせず突き進む。
よく見れば、彼らの鼻と口を覆うように何かの装置がついている。
毒霧には対処済みといったところのようだ。
フラフラと倒れそうな雷雨の目の前に、一人のオカマが迫る。
「そこをどけぇ!」と武器を振りかざすオカマに、「やめろぉ!」とハンニャバルの声が響く。
「"キャスケード"」
「がっ…は」
オカマと雷雨の間に滝よりも激しい雨が壁を作り、振りかざされた武器を弾き返す。
勢い余って顔面がその壁に触れてしまったオカマは大量の切り傷が出来、つけていた装置までもが外れ、毒霧の餌食となった。
その一連を見ていたハンニャバルは一瞬驚くも、固まる看守たちを退けて雷雨の元へと走った。
「おい!!!しっかりしろ!!!」
倒れた雷雨を抱えて、ハンニャバルは急いで通路へと戻る。
「副署長!解毒剤を!」
看守の一人が注射器型の解毒剤をハンニャバルへ渡すと、それを自身へは使わず、雷雨の腕へ刺した。
「…うぅ……がほっ!」
突然吐血する雷雨を見て、ハンニャバルは看守たちへ叫んだ。
「もっと解毒剤を持って来い!!!」
「はい!」とその場に居合わせた看守たち全員が走り出す。
(間に合ってくれ)
ハンニャバルは自身に回る毒を気にもせず、雷雨を見た。
彼女は虚ろな目を彼へと向けて口を動かす。
「な、なんだ、どうした」
小さな声を逃すまいとハンニャバルは彼女の口元へ耳を傾けた。
「クロコ………さん」
毒の影響で脳を犯されていた彼女は幻覚を見ていた。
クロコダイルが目の前にいる。
そう錯覚して、雷雨の口から名前が溢れていたが、ハンニャバルにはそれをハッキリと聞き取ることは出来なかった。
「おい!目を開けろっ!!雷雨!!!」
意識を手放した雷雨にハンニャバルは叫び続けた。
毒が回り、動かない自身の体などお構い無しに。

TO BE CONTINUED