雷雨’s blog

現実を書こう!

The Last of Us Part II発売記念夢小説(切)

Even if I knew that tomorrow the world would go to pieces, I would still plant my apple tree.

たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える。


† Nameless story †


叫び声、銃声、泣き声、爆発音。
血が汗とともに滴り落ち、涙が死体から流れた。
動かない母親の体を揺すりながら、こちらを見た子供の目を覚えている。
怒りや悲しみ、復讐を誓った目を。
今でも鮮明に。


「K63、話がある」


不意に軍曹から呼ばれ、一人別室へと連れていかれた。
いつものように彼は葉巻を咥え火をつける。
それをじっと見ていると、一枚の紙が手渡された。
『…これは?』
軍曹は深い息を吐くと、落ち着いた様子で紙に印刷された顔写真の男を指し示す。
「次はこいつを始末しろ」
『承知しました』
下がれと顎で合図をされ、静かに立ち去ると、そのまま武器庫へと向かう。
道中、同僚でもある友人が合流し、彼も任務に同行することを知らされた。
『…C13、今回は援護に回ってもらう』
そう言うと、彼はライフル弾を確認する手を止めて、「ああ」と微笑んだ。
15分程度で準備を終え、馬の元へと歩き始める。
彼は帽子を深くかぶり直し、こちらを見た。
「ターゲットの名はジェシー、19歳前後の男でジャクソンという場所にいるらしい…仲間は大勢、ファイアフライを壊滅状態にした奴もその中にいる、慎重に行動しろ」
『…ラストネームは?』
C13は再度紙に目を落とし、眉間に皺を寄せた。
「…書いてないな、まぁ顔は割れてるから、なんとかなるだろ」
溜め息をつきながらも馬に乗り、守衛へ合図を送る。
重い門が横へ動き、舗装されていない道へと馬を走らせた。


10分程走ったところで、馬が突然興奮し、振り落とされそうになりながら、地に足をつける。
「なんだ?」
馬をなんとか落ち着かせ、周囲を見回す。
日が沈み始めており、森の中は一層暗さを増している。
その中でも死臭だけはすぐに分かった。
『…臭いな…死体がすぐ近くにあるのかもしれない』
「動かない死体じゃないと良いな?」
『感染者は死体じゃない、ゾンビ映画の見すぎだ』
すると、近くで草木が大きく揺れた。
直ぐ様銃を構え、ゆっくりと近づく。
「…気を付けろ」
音をたてて草木の中から何かが現れる。
その姿を確認して、銃をゆっくり下ろした。
「…おい、犬だろうと気を緩めるな」
そう、姿を現したのは濃いグレーの雑種だった。
それも弱々しい老犬。
『…大丈夫、任せて』
一歩ずつ近づくと、人を怖がる素振りも見せず、犬はただじっとこちらを見ていた。
手をゆっくり差し出す。
薄汚れた顔のすぐ傍までいくと、その手を犬が舐めた。
『よしよし、いい子』
「…ったく、神経すり減るぜ」
C13は力が抜けたように銃を仕舞い、再び馬へと飛び乗る。
「ほら、犬に構っている時間はない、行くぞ」
『…いや、待って』
犬の首輪が目についた。
そこに付いているタグを手に取り、文字を読み上げる。
『ジャクソン』


焚き火がゆらゆらと目の前で揺れた。
乾パンを口に運びながら、光を見つめる。
その中に子供の瞳が一瞬だけ現れ消えた。
驚いてパンを落とすと、老犬がそれを食べ始める。
それを見て我に返り、再び火に目を移した。
「どうした?」
『…なんでもない』
「それより、その犬、本当にジャクソンの犬なのか?」
C13は犬の首輪から取ったタグを訝しげに見る。
『恐らくな…上手くいけば罠に使える』
「罠?」
『飼い主を脅す…飼い主がジェシーなら話は早いんだがな。…まぁ、作戦を開始する前に見つかったとしても、害はないと言い張れる材料になる』
「「ただ飼い主を探してただけなんですぅ」ってか?笑える」
C13を睨み付けると、彼はやれやれと手をあげた。
「だが、その犬がここらを彷徨いてるのは最悪だ、そいつらが来てる証拠だろう…」
『そうだな…そうだとしたら、私たちが軍所属だということは絶対にバレてはいけない…バレた途端、一気に戦争だ』
「…国民を守ってたのに皮肉だよな、そいつらが敵になるなんて…今やファイアフライだけでなく、周りは革命を掲げたイカれた連中ばかり…」
少し間を置いてC13は続けた。
「何故軍を攻撃する?敵は俺たちではなく、感染者のはずだ、これじゃあ、同士討ちだ」
『…………人間は自ら滅びる』
「………。」
弱まってきた火に枝をくべる。
燃える音が小さく響いた。
「…なぁ」
『……。』
「……どうして、さっき動揺したんだよ?」
C13と視線がぶつかる。
そして、彼の瞳の奥に子どもを見た。
『……あなたが来る前の話…ファイアフライが軍を襲ってきたことがあった…』
不思議と口は動いた。
今まで心の奥底に眠っていた感情が再び沸き上がるように。
『あれは、軍で保護していた親子だった……母親が逃げ遅れて、被弾……ファイアフライが撤退した後、子供は動かない母親の体を泣き叫びながら揺すって、私を見た』
鮮明に当時の情景が目の前に広がり始めた。
するはずもない音や臭いが立ち込める。
『彼女は何も言わなかった…けど、何故か声がした…「どうして守れなかったの?」と。彼女の目は怒りに満ちていた…その目が…その目が今でも甦る』
「………。」
C13は全てを聞き終えても、身動き一つせず、ただ何かを見ていた。
そして突然立ち上がり、すぐ隣へと腰を下ろす。
彼はそっと肩を抱いた。
宥めるように小さく叩いて「大丈夫だ」と一言言った。


日が昇り始めると、最後に番をしていたC13が体を揺らす。
「…時間だ、行くぞ」
眠気眼で馬に乗り、C13から犬を抱き取って片手で支えた。
それを見てC13が笑う。
「おいおい、落馬してもしらないぞ」
『…何かあったら戦闘は任せた』
それから、何時間もかけて北へ向かった。
夕日が沈む頃、ちらほらと雪が積もる道に辿り着き、馬荷から防寒具を取り出す。
C13と互いに顔を見て、頷き合う。
何も言葉は交わさず、そのまま馬を歩かせた。
暫くして完全に日が沈み、懐中電灯を頼りにして慎重に進む。
少しだけ吹雪いてきたところで、遠くに明かりが見えた。
『C13!』
「ああ!見えてる!」
先に馬から降りたC13へ犬を預け、雪へ足を入れる。
獣も人も通っていないせいか、道とはいえ雪が深い。
足をとられないように、一歩ずつ確実に進む。
明かりはだんだんと近づき、そして、ついに目と鼻の先までになった。
岩と木々の間に身を潜め、辺りを見る。
武装した者が二人ほど門の前に立っているのが確認できた。
『……どうする』
「………この吹雪の中、一晩過ごすのは無理だ…一人が注意を引いて直ぐ様片をつけるか、犬を使って潜り込むかだ」
犬は体についた雪を払うように身震いした。
『…犬を使おう…そして、ジェシーを見つけるんだ』
「……いいか、相手はテロリストも同然だ、勘づかれるな」
小さく頷き、馬を引いて門へと歩き出す。
すると、それに気づいた門番二人が銃を構えて近づいてきた。
「動くな、誰だ!」
『…旅の者です、一晩だけでいいので泊めていただけませんか?』
そう言うと、門番二人は顔を見合せた。
「信じられないな、過激な組織の一員なんじゃないのか?今までどうやって生きてきたんだ?」
『…二人で点々としてきました…食料を求めて…尽きたらまた別の場所へと』
銃を構えたまま一人は上から下まで見定めるように見た。
「で、何故ここへ?」
『……北へ向かえば何かあるかもしれないと思って…そしたら、明かりが見えて、ここへ』
沈黙が少し続いた後、奥から一人の青年がやってきた。
「二人とも、そこまでにしておけ、ジョエルが入れろと言ってる」
門番たちは渋々銃を下げると、門を開けた。
青年が右手の手袋を外しながら近づいてきて、その手を差し出す。
「やぁ、ようこそ、ジャクソンへ。俺はジェシー、よろしく」
『……私は……ライウよ、……ありがとう』
「いや、礼はジョエルへ。それより、中へ入って。温かい珈琲がある」
動揺を隠すように嘘を吐き、悟られないようにできるだけ笑顔を心がけた。
後ろからC13が少し離れて歩いているのが分かる。
「彼は?」
『……友人のカーター…無口で愛想が良くないんだけど、悪気はないの…許して』
「ああ、大丈夫だよ、さぁ着いた、入って」
無機質な建物に入ると、中はそこそこ雰囲気が作られたバーになっていた。
昔ながらのといった感じだ。
『…凄い』
「だろ、ここは皆の憩いの場になってる、食べ物も飲み物もここで手に入る、さぁ座って」
カウンター席へと促され、そっと座る。
C13もそれに続いた。
「おいおい、待て待て、その犬はここの犬じゃないか?」
『……首輪がついてたから迷子の犬だと思って連れてきたんだけど…ここの子だったのね?』
犬は一吠えすると、舌を出した。
「ありがとう、探してたんだ」
『いえ、帰すことができて良かった』
「あ!ジョエル!」
青年は少し手を上げ、一人の男を紹介した。
「彼がジョエルだ」
『……どうも、ありがとう…私はライウ、こっちはカーターです』
男は少し微笑むと、犬を撫でた。
「ジョエル、彼女たちが保護してくれてたんだよ」
「そうか……こちらこそ、礼を言わないとな」
『いえ、大したことは…』
「いや、ありがとう……今日は泊まっていくといい、明日また話そう」
『……はい』
認めたくはなかったが、萎縮した。
目の前にいる男、ジョエル。
それは紛れもなくファイアフライを壊滅状態に追い込んだ男だった。
「では、俺はこの辺で…ジェシー、案内を頼んだぞ」
「了解」
男は会釈して吹雪の中へと消えていった。
C13に目をやると、彼も男に気づいていたようで、緊張状態からか目を見開いていた。
「はい、珈琲…温かいうちにどうぞ」
『…ありがとう』
目の前に出されたカップを手に取り、一口。
このご時世ブラック珈琲に文句は言えないが、二口目を口にする気にはなれなかった。
『……ねぇ、一つ聞いてもいい?』
「なんだい?」
『…ここはファイアフライか何か?』
「………違うよ」
少し青年は戸惑いながらも、続けた。
「ここはジャクソン…皆が助け合って生きてる。軍や革命派には加担しない」
『……中立ってこと?』
「…いや、そういうことでもない」
それまで黙っていたC13が珈琲を飲み干して、口を開いた。
「じゃあ、どちらにも属さず傍観するだけか?」
あまりにも失礼な質問に思わずC13の肩を叩く。
「いや、いいんだ…。…傍観もしない…俺らはただ生きていたいだけなんだよ…だから、死ぬリスクを冒してまで土俵に立たないだけさ」
『………そう』
「あんたらもだろ?旅人として移動して、生きるためだけに生きる、そうだろ?」
『…そうね』
「俺らには戦いなんて関係ないのさ、不必要だ、誰も傷つけず、誰にも傷つけられない」
青年は笑顔をこちらに向けた。
と同時に、店の扉が勢いよく開く。
ジェシー!こんなとこにいた!」
「なんだよ、ディーナ、お客さんがいるんだから少しは静かにしろよ」
ディーナと呼ばれた若い女性が青年の傍まで来ると、突然彼を抱き締めた。
「もう離さないからねぇ!」
「おいおい、酔ってるのか?全く…どうして飲むんだ」
「アンタが悪いんだからねっ私を寂しくさせるから!」
彼女を笑顔で受け止めていた青年の表情が真剣なものへと変わる。
「悪かったよ…本当に」
二人は視線を合わせ、キスをした。
「約束して、今後、寂しい思いはさせないって!」
「…分かったよ」
青年は彼女の額にキスを落とすと、それに満足したのかディーナはふらふらの足で店を後にした。
「あ、悪い、少しだけ待っててくれるか、あんな酔っぱらいを一人で帰すわけには…」
『ええ、行って、待ってるから』
焦りを抑えきれないのか、青年は転けそうになりながら、女性を追いかけていった。
C13と二人で取り残され、深い溜め息を吐く。
冷めきった珈琲がカップの中で揺れた。
「……ターゲットは見つけたな」
『………。』
「今日中に終わらせるか?話があると言って人気のない場所へ誘えば片づきそうだ……それか後日にするか?」
『………。』
「おい、聞いてるのか?」
C13は少し苛ついたように肩を掴む。
『……何故なの?』
「何が?」
『……何故彼なの?』
「さぁな、上からの命令だ」
何かを隠すように俯くC13の目は泳いでいた。
『………何故なの?』
「………。」
『………何故』
「WLFがやったと思わせろと言われた」
言葉を失った。
何もかもが崩れ去るような感覚が襲い、神経が麻痺したように体が動かない。
理解をするのに数秒かかり、やっとのことで口を開く。
『……シアトルの軍事占領を…進めるため?』
「ああ、そうだ、外部の人間同士の争いで少しでも軍を有利にする…漁夫の利ってやつさ」
C13は小さく笑った。
それを見て怒りが沸々と込み上げる。
『………。』
何かを言いたかったが、頭に血が上って何も出てこなかった。
そして、留まってはいられなかった。
席を立ち、扉に手をかけようとすると、C13がそれを止める。
「どこへ行くっ?」
『……出ていく、もう軍にも戻らない』
「そんなことして、ただで済むと思うのか?追われるぞ」
『だから?傷つけるの?何の罪もない人を?私はそんな理由で軍にいたわけじゃない!人を守るためよ!』
力任せにC13ごと扉を押す。
男は足を滑らせ、雪の上に尻餅をついた。
『彼を見たでしょ、誰かを傷つけるような人には見えない、それに…なにより幸せそうよ…それを壊せと?』
「………。」
『最後に聞く、あなたは何のために軍人になったの?』
C13は再び俯いた。
そんな彼を置いて歩き出す。
厩に着くと、乗ってきた馬を引っ張り出し、門へと向かう。
門番がこちらを見て、不思議そうな表情を浮かべた。
「どちらへ?」
『落とし物をしてしまって…すぐ戻ります』
一人は何かを言いたそうだったが、すぐに口をつぐんだ。
「分かりました、すぐですよ」
『…はい』
馬を走らせ、無我夢中で来た道を戻った。
20分程すると、雪のない舗装された道が現れた。
そして、馬を降りて少し歩き、近くの岩へ腰かける。
何故か涙が溢れた。
何か大切なものを失ってしまったかのように。
突然目の前の馬が唸った。
そして、彼は私を見て、目を離さなかった。
ただただ見ていた。
彼の目の奥に子供が映る。
そう、自身が映る。
信じてきた道を失った自身の姿が母親を失った子供の姿へと変わる。
あの目が私の目だ。
『もう何もない』
「そんなことはない!!」
全速力で馬を走らせ追い付いたC13が叫んだ。
『来ないで!私はもう戻らない!!』
「もういい!もういいんだ!!二人でどこかへ行こうっ!!」
『あなたは戻ればいい!』
「君を一人にはできない!」
『何故!?』
C13は馬から降り、静かに近づく。
そっと岩に腰掛け、迷いのない目を向けた。
「俺たちはずっと一緒にやってきただろ…最後まで一緒は嫌か?」
互いの視線が交わる。
言葉の代わりに首を横へ振った。
C13はそれを見て微笑む。
「…なら、行こう、ここは寒すぎだ」
『……………C13』
それを聞いて、彼は人差し指を左右に振る。
「いいや、もうそれは必要ない」
『…………?』
「俺はカーターなんだろ?君が名付けた、だろ?ライウ」
意地悪そうな顔を浮かべて、カーターは馬に乗った。
「俺たちには名前と新しい人生がある」
『………。』
「それだけで十分だろ?」
『…ええ』
「さぁ、行こう!」


動かない母親の体を揺すりながら、こちらを見た子供の目はもうない。