雷雨’s blog

現実を書こう!

ONE PIECE 25周年記念夢小説 続(7) サー・クロコダイル(無)

※タイトルはサー・クロコダイルですが、今回はハンニャバル(シリアス、微甘)になります。

 

もう一度だけ
もう一度だけでいいんだ


🏴‍☠️風雨同舟😈


それから三日後。
すぐに毒が完治したハンニャバルは医務室に通っていた。
時間が出来れば医務室へ必ず向かう彼の姿をドミノは毎回見ていた。
「可哀想な副署長…」とドミノの横にいた一人の女性看守が続けた。
「目覚めるわけないでしょうに…」
ドミノがその看守に目を向けると、看守はハッとして「失礼しました」と敬礼をした。
「分かりませんよ」
「…はい?」
「ここが地獄なら、神だっているはず」
「…は、はぁ…」
理解出来ないといったように看守は生返事をする。
ドミノはそんな彼女ににこりと微笑んで、医務室へ続く扉へ向かって「ですよね、副署長…」と小さく呟いた。


一人部屋の室内ではベッドが一つと、その横にサイドテーブル、衣装棚が並ぶ。
殺風景な部屋が少しでも明るくなればと、ハンニャバルはテーブルに花瓶を置いた。
中には桃色のガーベラが一輪、ハンニャバルを見つめている。
ふと、ベッド横にある忌々しい機械が目についた。
小さな機械音がベッドで眠る彼女の呼吸と共に等間隔で鳴り響く。
「…雷雨」
ハンニャバルは名前をぼそりと溢すと、近くにあった椅子へと腰かける。
何故こうなってしまったのか。
それは三日前に遡る。
インペルダウン内で鬼の袖引きから戻ったとされるオカマを捕まえた。
尋問を終えたマゼラン署長と雷雨たちの前に仲間を救おうとやってきたオカマたちが現れたのだ。
鎮圧の為、署長は自身の能力である毒を使った。
署長の能力を理解していなかった雷雨は逃げ遅れて毒の餌食となり今に至る。
だが、ハンニャバルは府に落ちていなかった。
(何故、署長は配慮しなかったのか)
昔から部下には厳しくも優しい人物であったはずだ。
それに加え、戦闘の実力もある。
雷雨に対して配慮をしながら戦えたのではないかと思わずにはいられない。
思考を巡らせてハンニャバルは、ベッドで静かに眠る彼女に視線を移す。
医者はもう目覚めないと断定した。
毒が脳にまで達していて、生命維持すらも難しいだろうとの診断だった。
(もう目覚めない…か)
ハンニャバルは雷雨の頬に指を滑らせると、彼女の顔にかかっていた髪を優しく退けた。
「…帰っておいでよ」
誰に届くわけでもない独り言が静かに響くのとほぼ同時に扉がノックされると、ハンニャバルは小さな声で返事をした。
少しだけ扉が開かれ、ドミノが顔を出す。
「お取り込み中失礼します。署長が副署長をお呼びです」


重たい足を引きずって、ハンニャバルは署長室の前に来ていた。
ノックが出来ないまま数分が経過。
どんな顔で入ればいいのか分からず、悩みに悩んでやっと扉を叩こうとすると、中から「何をモタモタしている」と声が聞こえた。
「失礼します」
ハンニャバルが重たい扉を開くと、奥の大きい椅子が目に入る。
そこに座るマゼランに目をやると、彼は神妙な面持ちでハンニャバルを見据えていた。
「近くまで来い」
「…はい」
マゼランは俯くハンニャバルを見下ろして、一つ溜め息を吐き、口を開いた。
「雷雨の容態はどうだ?」
「特に何も」
「…そうか、お前ももう大丈夫なのか?」
「…えぇ、私はいつも通りです」
「……本当か?」
質問の意図が分からないと、ハンニャバルは顔を上げる。
マゼランを見れば、瞬きもせずにじっと目を合わせて、こちらの様子を伺っているようだった。
「話は以上ですか?私も忙しいので、もうこの辺で…」
「待て」
そそくさと去ろうとするハンニャバルをマゼランは強く低い声で止めた。
一瞬、ハンニャバルは驚いてびくりと肩をあげる。
「な、何でしょうか?」
恐る恐る振り向くハンニャバルに、マゼランは核心をつく質問を投げ掛けた。
「私が何故雷雨の前で毒を使ったのか府に落ちないのではないか?」
「!!」
ハンニャバルは思わず目を見開いて、何か言いたげな口を我慢するように唇を噛んだ。
「…お前が入署した際にも言ったはずだ」
「…」
「ここはインペルダウン、決して脱獄出来ない監獄であり、侵入も許さない。つまり、裏を返せば何が起こっても対処するということだ」
マゼランは一呼吸置いて、ハンニャバルへ諭すように続けた。
「それはどんな犠牲を払ってでもな」
「!!!」
ハンニャバルは自身の拳がふるふると震えるのを感じていた。
沸々と沸き上がる抑えきれない感情に、我慢していたのは数分で。
気づいた時には既にマゼランの頬を殴っていた。
鈍い音が部屋に響いて、俯くマゼランにハンニャバルは叫んだ。
「何が犠牲だ!!!犠牲がなけりゃ成り立たない無敵の監獄なんてクソくらえだ!!!アンタにとっての部下がそれくらいの存在なら、素直についてきた部下たちが報われねェだろうがッ!アンタは署長になって変わっちまったよ、昔のアンタはどこにいっちまったんだ!こんな署長についていくくらいなら、私が署長になる!!!」
ハァハァと息を切らすハンニャバルに、マゼランは無言を貫いた。
その様子にハンニャバルは「何とか言ったらどうなんですか」と息を整えながら問う。
しかし、それでもマゼランは俯いて何も答えまいと口をつぐんだ。
答えは得られないと理解したハンニャバルは「失礼します」と呆れた声で吐き捨て、部屋を後にするのだった。


その後、ハンニャバルは医務室へ通い続け、二週間が経とうとしていた。
いつものように花瓶の水を替えて、雷雨の髪をき、褥瘡が出来ないように彼女の体位を変える。
女性のデリケートな事はプライバシーに配慮してドミノに任せ、自身に出来ることは自身がとハンニャバルは多くの時間を雷雨に費やしていた。
疲労が限界に達することもしばしばで、医務室に泊まることも日常茶飯事になっていた、そんなある日のこと。
ハンニャバルがつい転た寝をして、雷雨の身体に無意識に凭れ、小さな寝息を立てた。
彼女の呼吸もそれに合わせるように重なる。
ピクリと雷雨の右手が動きを見せるが、ハンニャバルは気づかない。
すぐ傍で鳴る機械音が少し乱れたように音の間隔がばらつき始め、彼女の呼吸の中に吐息のようなものが混ざっていく。
ドクンと一つ大きな鼓動が鳴り、雷雨の瞼がピクリと動いた。


(「ここはどこ?」)
意識の中で雷雨は暗い空間にいた。
一寸先も見えない暗闇に。
その中で周りがざわざわと音を立て始める。
(「う、うるさい!」)
音は次第に大きくなり、雑音から複数の声に変わっていく。
「てめェには期待しちゃいねェ」
(「クロコダイルさん?」)
「…去りなさい、あなたには無理よ。」
(「ロビン…」)
アンタ、バカじゃないッ?」
(…ボン・クレー)
昔の仲間たちの声が大きくこだました。
それらの言葉が繰り返し雷雨の中で響き渡る。
頭が割れるような痛みに思わず彼女は膝をついた。
呻き声を上げる彼女に声は次第に変化をしていく。
「今日から、よろしくお願いいたしますね」
(「…ドミノさん」)
「…あぁ、ハンニャバルが言っていた子か」
(「マゼラン署長…」)
「何かあればいつでも言って!そして、ハンニャバルと呼んで!」
(「副署長?」)
声が徐々に小さくなったかと思うと、遠くに小さな光が見えた。
痛みに耐え、一歩ずつゆっくりと前へ足を踏み出す。
すると、不思議なことに光に近づく度に痛みは和らいでいった。
光が目の前に迫ると雷雨は立ち止まり、後ろをそっと振り返る。
遠くの暗闇の中でクロコダイル、ロビン、ボン・クレーに似た何かが蠢いているのが辛うじて見えた。
雷雨がそれらを凝視していると、突然光から一人の声が聞こえた。
「帰っておいでよ」
驚いたように彼女は光に目をやると、小さく微笑んでその光に手を伸ばした。


「…」
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、ぼやけた視界の中に白い天井が目に入った。
すぐ傍では規則的に機械音が鳴っている。
自身がベッドの上で寝ているというのはすぐに理解した。
見たことのある部屋に雷雨は回らない思考を巡らせる。
(…ここは医務室?)
最後の記憶は断片的で。
オカマが武器を振りかざしてきた所までは覚えている。
どれくらい眠っていたのだろうか。
それにしても身体が重いと、雷雨は力を振り絞って自身の身体に視線を移した。
大きい何かがお腹の上に乗っているのが見て取れる。
(……あれは……)
「…ふ、く…しょ……う」
掠れた声で声をかければ、「うぅん」と唸るそれ。
一つ身じろぎをして、それはゆっくりと顔を上げた。
目をパチパチと動かして、雷雨を見る。
視線が合うと、時が止まったかのようにそれは動きを止めた。
「…ふ、く……ちょ…う」
彼女がもう一度呼ぶと、それは驚きと喜びを含んだ表情をして、彼女を抱き締めた。
「ハンニャバルと呼んで!」
痛いと訴える雷雨を他所に「本音出ちゃった」とハンニャバルは照れ笑いをするのだった。

丁度その頃、インペルダウンのlevel6では新しく囚人が収監されていた。
囚人は鉄格子に鍵をかける看守を睨み付けて、聞こえるように鼻を鳴らす。
その様子に看守は嘗められまいと強気な声をかけた。
「大人しくしてろよ」
「……」
「クロコダイル」


TO BE CONTINUED