草履を擦るように走る足音が外から聞こえてくると、詠は少し微笑みながらも作業の手を休めなかった。
そんな彼女を他所に戸が力強く開いて、一人の少女が元気よく叫んだ。
「詠ちゃん!遊ぼう!」
詠は手に持った藁を編みながら、戸の方を一瞥する。
それを見て少女は不思議そうに首を傾げた。
「何やってるの?」
「…もう少しで出来るから少し待ってね」
少女は草履を掃き捨てるように脱ぐと詠の隣へと座った。
詠の手には編まれていく藁。
それは、人のような形をしているように見える。
「ほら、出来た」
「…藁人形?」
「可愛いでしょ」と笑う詠に少女は満面の笑みで頷く。
「今日はこれで遊ぼう」
「…どうやって?」
詠の提案に少女は再び首を傾げた。
「遊び方があるの、誰にも言っちゃ駄目だよ、私たちだけの秘密」
「秘密なの?」
「そう、秘密。守れる?」
小指をすっと差し出して、詠は真剣な表情で彼女を見た。
少女もいつもと雰囲気が違う詠に少し不審がりながらも、差し出された小指に自身の小指を絡ませる。
「なんか不思議な感じ」と言う彼女に構わず、詠は一人唄い始めた。
「ゆーびきーりげんまん…」
「詠ちゃん?」
無視をする詠に少女は不信感を募らせる。
「嘘ついたら針千本のーます…」
「私やっぱり怖い!」
少女は絡ませた指を強引に離して、申し訳なさそうに俯いた。
「ごめんね、詠ちゃん、なんかいつもと違うから…」
ゆっくりと顔をあげて少女は詠を見ると、驚いたように声をあげて口を抑えた。
詠の片手には薄汚れた剃刀があり、そこから血がぽたぽたと滴り落ちている。
血溜まりの中には小さな固まりが落ちており、よく見るとそれは詠の小指だった。
少女は一瞬で込み上がってきた気持ち悪さに嘔吐きながら、その場にしゃがみこむ。
「遅いよ、もう指切ったんだから」
詠は不敵な笑みを浮かべて彼女の前にしゃがむと、小指の無い手を差し伸べて、手を出すよう促した。
「詠ちゃん…」
「私達ずっと一緒」
少女は震える手を詠の手の上に置くと、刃が突き立てられるのを濡れた目でじっと見た。
肉に食い込んだところで彼女は溜まらず声にもならない叫びをあげる。
ぽとりと落ちた小指を見て、詠は満足そうに微笑んだ。
「約束だよ」