雷雨’s blog

現実を書こう!

短編夢小説/SILENT HILL(お相手なし)/切

罪が歩かせ、罰が呼吸する。
行き着く先は、生か死か。


†A city of love and sin†


人がいない街を歩いた。
晴々とした空もいつしか霧に覆われた。
まるで、そこはいつもの街ではないようで。
それでも、ただ歩いた。
深い白い世界に臆することもなく。
目的があるかのように脚は真っ直ぐに向けられる。
風はない。
少し生温い空気が漂うだけだ。
そこに少女は独り歩く。
目は一点を捉え離さないが、その先は何も見えない。
どこからか聞こえるラジオの音と唸り声。
時折、地面に付く赤い血。
もうそこがこの世ではないというのは明確だった。
地獄。
そう呼ぶのに相応しい。
少女は分かっていた。
ここがどこなのかも。
自分が何故ここにいるのかも。
全て知っていた。
知った上で覚悟は出来ている。
償い。
それこそがこの場から救われるたった一つの方法。
そして、それは身体からの解放。
人は生まれ持った罪がある。
身体に染み付いたその罪から逃れられる道。
決して怖れてはいけない。
最高の救いなのだから。


『叶うことなど願ってはいけなかった』


脚を止めれば、目の前に佇む一つの墓石。
刻まれた名を指でなぞる。
記憶が薄れ、顔を思い出せない。
声も仕草も。
それでも、涙は溢れた。
名前しか知らない愛しい人。
確かに存在した人。
好きという気持ちは今も変わらず、心に留まった。
何もかも消え去った過去。
何故死んだのかも分からない。
いつどこでどのように。
全て忘れてしまった。
嘆き哀しみ、墓石にしがみつく。
手に触れた感触に驚きながらもそれは現れた。
血の付いたシャベルにナイフ。
後ろに隠されていたそれらは触れた瞬間、断片的に何かを思い出させた。
雨の日にシャベルで掘った。
洒落たレストランで誰かと会話した。
誰かの家でナイフを握った。
意識が戻れば、まだ墓石の前で。
それが夢ではないと気付かされる。
見開かれた目は墓石の名を見つめた。
そして、揺らめく影に振り向いて笑みが溢れる。


『やっと思い出せた』


殴られる衝撃に少女は地に伏せる。


『・・・私は・・貴方を』
「Happy birthday to you」


脳は息を止めた。


生きることは死ぬこと。
死ぬことは生きること。
罰は死であり、償いはそれを受け入れること。
死ねば新しく生まれ変わる。
誕生を皆が祝うだろう。
罪を背負って生まれる命。
それは今も変わらず芽吹く。


全ての愛と罪が集まる街、SILENT HILL


また一人、償う男が脚を踏み入れる。


それは別の御話。


─愛は罪である─