雷雨’s blog

現実を書こう!

BLEACH夢小説/涅マユリ/ギャグ微切

皆、歪んでいると言うけれど。
その言葉を発した思考は歪んでて。
それを嘲笑う自分は何もかもが歪んでる。
もう何が歪んでいるかなんて誰も知りはしない。


●Ende des Regens●


「雷雨ーっ!」
『にっ兄さん!?』
昼下がり、食堂から出れば迷いもなく突っ込んでくる。
華麗に避ければ、その体は宙を舞い、勢いよく地に伏せた。
『毎度何なんですか?』
涙目で振り返る姿に少々溜め息混じりに聞いてみる。
「何って、愛しい妹に抱きつこうとして何が悪いっ」
『いや、悪い』
即答すれば、悲痛な叫び声が響き渡り周囲の視線を集める。
こんなのが兄だとは認めたくはない。
それでも、あの十一番隊の四席にまで昇り詰めたのだから認めざるを得ない。
『分かったから。それより、その書類大丈夫?』
力一杯に握り締められたであろう、紙は兄の手の中で原形を留めていなかった。
「あぁっー!!?」
魂が抜けたように白目を剥く兄。
背を向けて(バイバイ)と手を振れば、瞬歩で目の前に立ちはだかる。
そして、目にも止まらぬ速さで土下座をかますと、床に頭がめり込んだ。
『また私に行けと?これで何回目よ?』
「頼むっ!今回ばかりは殺される!!」
いつもなら苦笑いで頼んでくるが、今回ばかりは本当に焦っているようだ。
兄が焦る相手など聞いたことはなかったが。
『一体どこに回す書類だったのさ?』
冷や汗を滴り落としながらも、兄は口を開く。
「じゅ・・・」
『じゅ?』
「・・・十二番隊」
自分が白目を剥く番だった。
「じゃあ、頼んだっ!」
そう言い残し、皺だらけの書類を置いていく。
ただ虚ろに焦点が定まらないまま、走り去る後ろ姿を眺めた。


『すみませーん、誰かいませんかー?』
不気味なチャイムを鳴らし、何度も問うが返事は一向に返ってこない。
初めに十二番隊隊舎に行けば、(技局だ)と言われ来てみたのだが。
誰もいないのはおかしい。
そう思い、もう一度鳴らそうと手を伸ばすと、手首を掴む誰かの手。
そこにいたのは。
『阿近さん』
「耳の良い局長が五月蝿いだとよ」
『ごめんなさい、でも、皆さんいないから』
「あぁ、今日は外で実験だったからな・・・まぁ、用事があって来たんだろ?上がってけ、もうすぐ終わる」
阿近さんは扉を開け、その場から去ろうとする。
慌てて止めれば、首を傾け欠伸をした。
『あの、私、涅隊長に用事が・・・中にいらっしゃるんでしょう?』
音が聞こえたなら中にいるはずだ。
「はぁ?何言ってんだ、局長も外だ」
どんだけ耳良いんだ、あの人。


技術開発局。
見馴れない大小のモニターに、無数の瓶に入れられた液体。
独特な臭いに鼻を押さえながら、傍にあった小さな椅子に腰掛ける。
手に納められた書類は震えでカサカサと音をたてた。
止めどない緊張が今にも心を押し潰しそうだ。
静かな空間に押し寄せる外の声。
扉がゆっくり開かれると、ゾロゾロと技局のメンバーが戻ってきた。
『阿近さん!』
「あ、局長なら自室じゃねぇかな?多分、戻ってるから大丈夫だ」
大丈夫じゃない。
『は、はは・・・わっかりましたー』
力なくひきつった笑顔で答える。
又もや白目を剥きそうだったが、それはグッと堪えて。
重い足に力を込め、局長室へと一歩を踏み出した。
凍てつく廊下。
あまり技局には来ないから、そう思うだけなのか。
それとも、あまりの恐怖で身体が寒いのか。
パニック気味な今の自分には答えを出すのは不可能だ。
色んな感情が頭の中を交錯する。
ハッと我に帰れば目の前には大きな扉。
いつの間にか局長室がそこにはあった。
アナ雪みたいに陽気にノックが出来ればどんなに楽か。
「誰かネ?」
突然の声に思わず小さな悲鳴が漏れる。
「五月蝿いヨ、早く入り給え」
『はっはい』
声が裏返ったのも一々恥ずかしがってはいられない。
静かに扉を開けば、不気味にギィと鳴った。
『四番隊、古間 雷雨です』
「四番隊?・・・ハテ、何も仕事は無い筈だが?」
特大サイズのモニターを背に、椅子ごと此方を向く隊長。
黒と白の化粧に青い髪。
奇抜なその出で立ちは恐怖を煽る。
『実は此処に十一番隊の書類が・・・』
「ホゥ・・・何故、君が十一番隊の書類を?その手の紙は此処から見ても皺だらけだが?」
薄暗い部屋にギラリと光る目。
逃げ出したい気分だった。
『じゅっ、十一番隊に私の兄がおりまして、書類を損傷させて・・・このような形に』
「質問の答えが足りないヨ、何故、四番隊である君が十一番隊の書類を届けている?その兄は何処へ行った?」
まずい、これは激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。
『いやぁ、更木隊長に急遽呼ばれて・・・』
頭に浮かんだ嘘をついてみるが、見透かされたように隊長の口角が上がる。
「君はその兄の尻拭いか・・・滑稽だネ。その腰抜け兄の名を聞いておこうか、後で呼び出す為に」
『ふっ風雪です』
済まない、兄さん。
「フン、字は読めるが・・・此処まで皺だらけにするとは、これだから獣は嫌いだヨ!」
ブツブツと文句を並べ、奪うように受け取った書類を机に広げる。
駄目になった数枚をゴミ箱へ投げ入れ、何かをメモする。
「十一番隊に返す別の書類と、今、読めずに捨てたページをメモった紙をすぐ渡すヨ。少々そこに座って待っていてくれ給え」
指し示されたソファに軽く腰を降ろす。
涅副隊長がお盆に茶を二つ乗せやってきた。
隊長の机に一つ置き、ソファの前にあるテーブルにも一つ置くと、小さな笑みを浮かべた。
『ありがとうございます』
「いえ」
此方まで笑顔になれる。
最高の癒しに心を撫で下ろしていると、それを壊す甲高い声が後ろで響いた。
ネム!何度言えば分かるんだネ!?茶が熱すぎるヨ!!」
「申し訳ございません、マユリ様」
そそくさと茶を下げようとする健気な姿。
試しに茶を口に含めば、其ほど熱くはない。
「お下げします」
『いや、私は大丈夫です』
深々と頭を下げると、副隊長は部屋から出ていった。
「全く、入らぬ気遣いをアイツにしないでほしいものだネ」
『気遣いだなんて・・・』
「マァ、いいヨ。もう少しで終わる」
『・・・』
この人は何故其処まで厳しくあたるのか。
娘や人造死神と云えど、度を越している気がする。
「何だネ?私の顔に何かついているかネ?」
『何でもないです』
慌てて目線を逸らせば、小窓に目がいく。
外はいつの間にか雨が降っているようだ。
傘を持ってくればよかったと小さな溜め息が漏れる。
「濡れたくないのであれば、技局の傘を使うといい」
『え・・・』
「使いたくないとでも?」
『そっそんなことはないです!しかし・・・』
モニターの一つに映る働く阿近さん達をチラと見る。
それに気づいた隊長は不敵な笑みを浮かべた。
「アァ・・・アイツらなど気にしなくてもいいヨ、阿近にでも濡れてもらおうじゃあないカ。それに・・・」
『それに?』
「君に使ってもらう傘は改良型でネ、後で感想を聞かせてもらうとするヨ」
(あぁ、もう使うこと前提なんですね。)なんて心の声は奥に仕舞いこんで。
『分かりました、お言葉に甘えて使わせていただきます』
阿近さんには後で菓子でも渡せば許してもらえるだろう。
『・・・』
世間話も終わり、茶を静かに啜る。
時計の音だけが規則的に刻まれていく中で、ソファに凭れればその暖かさに瞼が重くなる。
瞑るだけならと、真っ暗な世界に目を落とす。
この後はどうしようか。
十一番隊に書類を届けて、兄に忠告し、そして・・・。
突如、暗闇が一気に明るくなり、空を真二つに裂いたかと思われるほどの音が鳴った。
驚いて目を覚ませば、目の前には白黒の顔。
失神しそうなぐらいの勢いで飛び退く。
『あっあれ、寝てました?』
「5分・・・ホラ、君が寝ている間に全ての書類に目を通したからネ、全て持っていってもらおうじゃあないカ」
たったの5分で・・・。
「どうかしたかネ?さっさと受け取り給えヨ」
呆然としていると、力強く書類を胸に押し付けられた。
『あ、すみません!』
落ちそうになる書類を慌てて受け取る。
小窓に近づき外を見やる隊長。
外は時折、雷鳴を轟かせる。
先程の目を覚ます原因になったのはそれだろう。
「雷雨か・・・」
『へ?』
気の抜けた声が咄嗟に出た。
思わず手で口を押さえる。
「君のことではないヨ、外が雷雨だと言っている・・・実に紛らわしい名だネ、兄も然り」
『・・・母がつけてくれたと兄からは聞いておりますが・・・確かに紛らわしいですね』
少し笑えば、それに答えるように隊長も笑った。
「ククク・・・どうせ、生まれた時の天気だろう?単純明快だヨ、そんな母親に会ってみたいものだネ」
『・・・もう会えないです』
振り向きもしない隊長の表情は小窓の反射だけでは窺えない。
だが、静かに次の言葉を待つ様子は背中だけでも十分だった。
『・・・母は私が物心つく前に亡くなったと・・・父から聞いていたのですが、その父も三ヶ月前に殉職しまして』
「・・・殉職かネ、父親も死神か・・・どこの隊に所属していた?」
わざと足音をたてながら扉に近づく。
「聞いているのかネ?」
『・・・やはり、覚えていらっしゃらないのですね』
「・・・」
振り返れば、眉間に皺を寄せる隊長の姿がはっきりと分かる。
「覚えていない・・・だと?」
『はい、私の父は十二番隊でした・・・そして・・・』
驚いた表情。
貴重な隊長の感情。
普通なら気分が晴れない場面だが、少しだけ気分が浮わつく。
部下には見せないそれらを今、自分自身が見ているという優越感を抑えながら、とどめを言い放つ。
『肉爆弾で死んでいった』
目を見開く隊長を背に扉に手をかけるが、それを阻止する白い手。
「・・・それは残念な話だが、私は隊士全員に言っているヨ、命を捧げる覚悟のない奴は出ていけと・・ネ」
『・・・はい、父もその覚悟の上だと思います。ですから、私は感謝しているのですよ』
「何・・・?」
思ってもいない返答だったのだろう。
隊長は聞き返した。
『・・・』
少々父を思い出せば、目に力が入っていたようで。
宙を睨み、言葉を発しない様子に痺れを切らしたのか、又もや問いただされる。
「オイ、何故だヨッ?」
ゆっくり目線を合わせると、不気味に思ったのか隊長は手を離した。
怒気が籠らぬようにヘラッと笑い、言葉を紡ぐ。
『あんなのは死んで当然』
「・・・」


借りた改良型の傘を差し、雷が鳴る中、十一番隊隊舎へと向かう。
門の前では傘を差し、腕にもう一つ傘を提げた兄が立っていた。
声をかければ驚いたように向き直る。
「おお!無事だったか!それより、傘持ってたのかよ?」
『借りた』
「もしかして、これか?」
馬鹿みたいにニヤけて親指をたてる兄に一発蹴りを入れる。
呻き声を漏らしながら書類を受け取る姿に溜め息を一つ。
『もうこんな失態は止めてよね、・・・でも』
空を見上げれば、所々光が射している。
もうすぐ雨が止むようだ。
『十二番隊ならいいよ』
「それって、どういうことだよぉ!?」
『さぁねぇ』
ヤレヤレと首を振れば、水溜まりが目に留まる。
そこに写る自分自身が何故だか笑ったかのように見えた。


*1

*1:「そうか・・・だが、少し疑問が残るネ。あれで死んでいった者の家族、知人には殉職とだけしか伝えていない筈だが?何故、君が知っている?」 『・・・何故でしょうね、あ、でも、兄は知りませんよ、ご安心ください』 「・・・ッ・・オイッ!待ち給えヨ!!」