雷雨’s blog

現実を書こう!

Predator: Hunting Grounds発売記念夢小説/Predator(?)

"It's possible they're here right now and we simply can't see them."

Helen Patricia Sharman


ж Mercy й


何もない。
何も見えない。
女は小屋の中で目の前の暗闇に対処しかねていた。
それは自身の意思だけではどうすることもできないからだ。
彼女の足枷と手枷が自由を奪い、古びた布切れが光を奪っていた。
それでも希望だけは、棄ててはいない。
外から微かに聞こえる略奪者の声に耳を傾ける。
突然、村を襲ってきた彼らの話から察するに、目的は金らしい。
女は考えた。
この村で金になるものと言えば、鉱石くらいしかない。
だが、その鉱石も昔に比べ、現在は微々たるもの。
諦めて帰ってくれるかもしれない。
そんな風に思っていた矢先だった。
「Let's sell the woman.」
女は耳を疑った。
村では英語を習わないが、一度アメリカの学校に通った経験が役に立っている。
今、彼らは自分を売ろうとしているのだ。
冷や汗が滴り落ちると同時に銃声が鳴り響いた。
何事かと確かめたい気持ちに駆られるが、どうすることもできない。
そして、彼らが小屋の中へと入ってきた音が聞こえた。
腕を捕まれ、強引に立たされる。
「Take her.」
リーダーと思われる者が指示を出すと、無理矢理暗歩かされる。
少しして、手枷と足枷が繋がっている鎖を後ろに引っ張られた。
止まれという合図らしい。
素直に止まっていると、彼らはヒソヒソと何かを話し始めた。
「Do you see anything?」
「No,But the shadow moved.」
「Did the enemy come?」
「Haha,Is the police coming here?」
どうやら、彼らには何かが見えているらしい。
だが、それが何なのかハッキリしない。
すると、一人が見てくると言って、その場を離れた。
数分経って、こっちに誰か来てくれないか?と声が聞こえ、また一人がその場を離れる。
彼らは女が認識している限りでは計四人。
今は二人が彼女を見張っていることになる。
隙をついて逃げることも考えたが、自由のきかない今の状態なら到底無理だろう。
と考えていると、離れていた二人が戻ってきた。
「What happened?」
リーダーが尋ねる。
「There was an animal carcass.」
「Is that all?」
「Yeah」
「Do not make me laugh.」
少しだけ怒気のこもった声が緊張感を甦らせる。
再び歩くことを強要され、葉と土だらけの道を渋々裸足で歩く。
そして、数十分歩いたところで、休憩を取ることになった。
生きたまま連れ帰らないと金にならないためか、少しだけ水分をもらう。
彼らは携行食を食べているようだ。
小さな咀嚼音が、お腹を鳴らせる。
「Are you hungry?」
一人が声をかけてきた。
女が答えようとすると、それに被せてまた一人が答える。
「Don't feed the woman.It's precious food.」
「But…」
「But not. Do you want to die?」
食料を分け与えようとしてくれた男は黙りこんでしまった。
場が少し重くなる。
沈黙を破るように、リーダーが行くぞと言って、また歩き出そうとした時。
一人が何かの衝撃で吹っ飛んだ。
鈍い音で木にぶつかった。
「Hidden!」
リーダーの一言で一斉に隠れる。
彼女も隠れようとするが、目がきかない上に足がもつれ、その場で倒れてしまった。
そして、銃声が鳴り響く。
彼らは上に向かって撃っているらしい。
だが、当たらない!という声が聞こえてくる。
突然、一人が断末魔のように叫んだ。
その後数秒も経たないうちにまた一人。
銃声は鳴り止み、辺りは静けさに包まれる。
女が震えながら、気配を伺っていると、腕を持ち上げられた。
「Come quietly.」
リーダーだけがこの場にいるらしい。
他の者がどうなったのか彼女には分からなかった。
分かりたくもなかった。
次は自分の番かもしれないという恐怖と戦うのに精一杯だった。
不思議だが敵であるはずの彼が、今は守ってくれる味方のように思える。
「Is he on your side?」
川の近くに移動すると、リーダーが口を開いた。
頭を左右に振り、違うと伝える。
村以外の味方なんて考えられない。
ましてや、男三人を倒せる者など。
リーダーは怪我でもしたのか、水を掬い上げる音と共に小さな呻き声をもらした。
そして何を思ったのか、女の目隠しを外す。
「If you see something, say it.」
分かったと頷くと、リーダーは森に向かって銃を向けた。
何か聞こえたらしい。
じっと構えていると、不意に鳥の群れが羽ばたいた。
リーダーは少し驚きつつも、安心したかのように銃を下ろす。
すると、次は反対側の森で声が聞こえた。
「…Can anyone …come over …here?」
途切れ途切れだが、こっちに誰か来てくれないか?と言っているようだ。
しかもその声は、衝撃で木に向かって吹っ飛んだ男のものだった。
「let's go.」
リーダーは女にそう言うと、声の方へと歩を進める。
二人が再び森に入ると、先程より薄暗くなっていた。
日が落ち始めているらしい。
「…Can anyone …come over …here?」
その間も、ずっと同じ言葉だけが繰り返されている。
声の主は歩いて数分の所で、こちらに背を向けて丸太の上に座っていた。
「Are you okay?」
小声でリーダーが聞くも、男は答えない。
リーダーは仕方なく、女に待機するよう伝えると、丸太へと近づいていった。
一歩一歩慎重に。
そして、男の元へと辿り着くと、大丈夫か?と彼の肩に手を伸ばす。
少し触れて男の頭が大きく揺れた。
振り向かせようとすると、その頭が地面に落ちる。
「…Can anyone …come over …here?」
既に死んでいるのにも関わらず、それは聞こえているのだ。
罠だと気づくも、遅い。
爆発音が響く。
女はそれをただ見ているだけしかできなかった。
数秒経って、全てが終わったのだと認識する。
略奪者はもういない。
けれど、足枷と手枷は付いたままで、村ももう壊滅状態。
彼女には何もなかった。
放心状態で佇んでいると、後ろに何か立っていることに気づいた。
振り向く勇気も気力もない。
すると、突然足枷と手枷が外れた。
驚きを隠せないまま、自身の掌を見る。
自由になったのだ。
誰かが自分を助けてくれた。
そう思い、彼女は振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。